多くの物流現場で、「人手不足」が課題となっています。トラックドライバーだけでなく、物流センターでも求人に対して応募が不足している、繁忙期には派遣スタッフを大量に投入せざるを得ない——こうした声を耳にすることが多いのではないでしょうか。一方で、人員を増やしても生産性が向上せず、かえって現場が混乱してしまうといったケースもあります。
本コラムでは、物流センターにおける人手不足の背景と構造的な原因を整理したうえで、現場で見落とされがちな業務設計上の課題と、具体的な改善の打ち手を解説します。
1.日本の人口減少と物流業界の人手不足
人口減少が続く日本では、今後あらゆる業界で人手不足が深刻化すると言われています。中でも、労働集約型の物流業界は特に大きな影響を受けています。トラックドライバーは高齢化が進む一方で、若年層の確保が進んでいません。国土交通省の資料によると、2030年度には平均で約7%、最大で約25%(1.7億トン~7.2億トン)の輸送力不足が生じるとされています(※1)。
また、物流センターでも、オペレーションを担う人材の確保が年々難しくなっています。たとえば、増加するEC物流に対応するために人材を確保しても、繁忙期で残業が増えれば早期に離職したり、欠勤者の穴を埋めるためにベテラン従業員に業務がより集中するケースもみられます。「本来2人で進める仕事を1人でこなしている」という状況も、日常的に発生しています。
(※1)間接引用:国土交通省『2030年度に想定される輸送力不足への対応方針』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001984794.pdf
2.物流業界における「人手不足」とは何か
先述のような状況を踏まえ、「人手不足」について改めて整理します。「人が足りない」とは、必要な業務量と確保できる労働力との間に生じる、「相対的なギャップ」を指します。人数の多寡だけで決まるものではなく、業務量や求められる品質水準とのバランスによっても左右されます。このギャップは、主に以下の5つの原因のいずれか、あるいは複合的に作用することで生じると考えられます。
●そもそも需要側が過大
●絶対的な人数不足
●必要なスキルを持つ人材の不足
●時間・場所・タスクへのリソース配分の偏り
●仕組みの制約による生産性の低下
本コラムでは、次の3点に焦点を当てていきます。
●必要なスキルを持つ人材の不足
●時間・場所・タスクへのリソース配分の偏り
●仕組みの制約による生産性の低下
1)必要なスキルを持つ人材の不足
必要なスキルを持つ人材が不足する背景には、複数の要因が考えられます。たとえば、スキルを持った人材の退職(定年退職、中途退職など)、特定の人材にスキルが集中している状態、業務の標準化や教育体制の不足などが挙げられます。
2)時間・場所・タスクへのリソース配分の偏り
人手不足は、人的リソースを必要な時間帯・場所・業務に適正に配分できていない場合にも発生します。
たとえば、物流センターでは、早朝や夜間、休日や祝日のシフトには人が集まりにくい状況が生まれます。また、公共交通機関の駅から離れている物流センターなど、通勤しにくい立地では人材確保が難しくなりがちです。
さらに、重い商品や貨物を上げ下げする、運ぶといった身体的負担が大きい作業は敬遠されやすい傾向にあります。
3)仕組みの制約による生産性の低下
デジタル化やDXで効率化できる作業を、アナログのまま続けていることに由来します。
具体的には、紙による作業指示、人手による目視確認やピッキング、非効率な動線、最適化されていない在庫配置などが挙げられます。こうしたケースでは一見すると人手不足に見えますが、実際には業務設計の見直し・オペレーションの改善が必要な場合があります。
人材を十分に確保できた時代のオペレーションを継続していることによって、属人的な業務スタイルが残っていないかを確認することも必要です。また、経営サイドや物流センターの管理者側が「やらなくてもよい仕事を継続させていること」や「人材が不足したときは新たに採用すればよい」といった思い込みをしていないかも確認する必要があります。
3.物流の現場で見落とされがちな4つの設計課題|動線・保管ロケーション・ルール・レイアウト
生産性の低下がみられる現場の中でも、倉庫や物流拠点の現場で見落とされがちな問題は、大きく4つに分けられます。
①動線設計
庫内のピッキング距離が必要以上に長い、出荷頻度の高い商品が奥まったロケーションに配置されているなど、商品配置と作業動線が連動していないケースは多く見られます。こうした問題は、作業者の移動時間や歩行距離を増やし、1件あたりの処理時間を長くします。特に、保管エリアが複数フロアや複数エリアにまたがる拠点では、階層間・エリア間の移動そのものがボトルネックになっていることも珍しくありません。
②保管ロケーション設計
先述の①動線設計と重複する部分もありますが、「保管ロケーション設計」には以下の要素を踏まえて保管方法や保管場所を最適化することが重要です。
・貨物、商品の特性(梱包状態、外装、外寸、規格品、異形・大型・長尺品など)
・入庫頻度・出荷頻度
・季節変動、時間(月、週、日、時間)ごとの物流変動
③ルール設計
庫内の作業手順が明文化されておらず、特定の人にしか分からない属人化した状態では、新人教育に時間がかかるだけでなく、ベテラン従業員への業務集中を招きます。その結果、ベテラン従業員が休むと拠点全体の業務が滞るような脆弱な体制になってしまいます。同じ拠点内でもシフトや曜日によって作業方法が異なるといった「ルールのばらつき」が生じているケースもあります。複数拠点を抱える企業では、特に注意が必要な課題です。
④レイアウト設計
たとえば、入荷バースと出荷バースが近接していることが原因で入荷と出荷の動線が交錯する、保管エリアと流通加工エリアの間でフォークリフトや台車の待ち時間が頻発するといったケースは珍しくありません。倉庫の増床やレイアウト変更を重ねてきた拠点ほど、こうした歪みが蓄積している傾向にあります。これらは、いずれも単純に「人を増やす」だけでは解決しません。むしろ増員によって庫内の混雑や非効率がさらに拡大する場合もあります。
4.「人手不足」改善の打ち手と体制構築
前章で述べたように、業務設計に問題を抱えたまま増員すると、非効率な動線やルールのまま人員を増やすことになり、かえって問題を拡大させてしまいます。人材の離職が続くと、採用・教育コストがかさみ、新たな採用活動に追われることになります。こうした悪循環に陥っている現場は珍しくありません。教える側であるベテラン従業員の負担が増加するだけでなく、物流品質にもばらつきが生じます。
このように、業務設計に課題がある状況を改善する場合は、業務の要素分解とデータ収集や分析が重要です。具体的には、どのような商品や貨物に、どの程度の時間をかけて対応しているか、といった切り口から分析し、ボトルネックや過剰な工数を可視化したうえで、解決策を検討します。
大きな投資を伴わずに着手できる改善策として、以下が挙げられます。
・ピッキングルートの見直し
・商品配置の変更
・作業手順の標準化とマニュアル化
動線やレイアウトに問題がある場合は、業務設計を見直すだけで大きな改善につながることも多々あります。特に、出荷頻度が高い商品を手前に配置し、頻度が低い商品を奥に配置するなど、在庫ロケーションの適正化は現場の業務改善と人手不足の緩和に効果的です。
省人化・自動化に向けては、以下のような選択肢があります。
・AGVやAMRなどの自動搬送ロボットや、自動仕分けロボットなどのマテハンの導入
・DPS(デジタルピッキングシステム)によるピッキング作業の効率化
・WMSによる在庫管理や作業指示の標準化
ただし、自動化を「万能の解決策」と捉えないことも大切です。全自動化よりも、一定の人手を介在させ、例外処理に柔軟な対応をとれる半自動化の方が課題解決につながる場合もあります。個人の努力に依存する体制ではなく、仕組みとテクノロジーを組み合わせた持続可能な運用体制を目指すことが重要です。
5.物流コンサルタントが現場で見ているポイント:要素分解とデータで問題を特定する
現場の課題を可視化し、解決を検討する方法の一つとして、物流コンサルタントの活用が挙げられます。
コンサルタントは、感覚や経験則だけに頼るのではなく、一定のフレームワークに沿って「人手不足」という漠然とした課題を、以下のような「検証可能な問い」に分解します。
・どの工程で問題が起きているのか
・どの時間帯に負荷が高まっているのか
・どの程度の生産性ロスが発生しているのか
加えて、現場を「モレなく、ダブりなく」整理することも欠かせません。入荷・保管・ピッキング・検品・梱包・出荷という工程の切り口と、人・モノ・作業手順・スペースといった資源の切り口を組み合わせて課題を俯瞰し、「原因はどこにあるのか」という仮説を立てながら検証を進めます。
さらに、以下のような要素も確認の対象です。
・出荷頻度によって商品をランク分けする「ABC分析」
・商品ごとの入出庫頻度
・重量・サイズ・破損リスクといった貨物の特性や形状
・同時に出荷されやすい商品同士の組み合わせ
・ロットの大きさ
・配送先や納品先
・季節ごとの需要変動
・出荷日時、出荷の優先順位といった時間軸
こうした要素は、データと紐づけて分析します。たとえば、ピッキング工程であれば歩行距離や処理時間、属人化が疑われる工程であれば作業者別の処理件数を確認します。
物流コンサルタントは、現場観察による一次情報と、WMSや勤怠データといった二次情報を組み合わせることで、背景にある事情や定性的な情報も併せて集めていきます。
多くの物流現場では、立ち上げ当初の状況に合わせた運用が続いています。しかし、時代とともに商品構成や物量は変化しており、現在の実態に合わなくなっているケースも少なくありません。こうした「なぜこのやり方をしているのか説明できない違和感」にこそ、外部の視点が価値を発揮します。
6.「物流現場で見落とされる業務設計の課題」のまとめ
「人が足りない」という声の背景には、複合的な要因が隠れています。まずは、現状を客観的に診断することが重要です。自社の内部だけでは気づきにくい構造的な問題も、第三者の視点を取り入れることで可視化できる場合があります。
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【参考資料】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 「日本の物流業界における課題と物流DXの推進」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2025/08/cr_250826_01.pdf
日本ロジスティクス システム協会 「ロジスティクス KPI活用の手引き」
https://www1.logistics.or.jp/wp-content/uploads/2025/03/2a3a8a607443a9e3ef11c35a3b33c335.pdf
J-Net21 「生産性向上に取り組む企業事例」
https://j-net21.smrj.go.jp/special/seisanseicase/index.html
J-Net21 「ビジネスQ&A 『煩雑な倉庫内の業務を効率化したいのですがどうすればよいですか?』」
https://j-net21.smrj.go.jp/solution/qa/procurement/Q0275.html








