2026年6月3日、厚生労働省は2025年の出生者数は67万1,236人(※1)であると発表しました。この数値は、1899年の統計開始以降、10年連続で過去最少を更新しています。
人口減少が加速するなか、「物流の2024年問題」は経済インフラの危機として大きな注目を集めました。また、国土交通省の試算によると、現状のまま有効な対策を講じなければ、2030年には必要な輸送量に対して輸送能力の約34%が不足する(※2)と見込まれています。こうした背景から、業界では「物流の2026年問題」が新たな課題として注目されています。物流に関する責任の所在は、運送事業者だけでなく荷主企業の経営課題へとシフトしつつあります。
(※1)出典:厚生労働省『令和7年(2025)人口動態統計月報年計(概数)の概況』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai25/dl/kekka.pdf
(※2)出典:国土交通省『物流の2024年問題について』
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620626.pdf
本コラムでは、物流危機の現状と背景、荷主企業に求められる対応策、さらに物流課題の解決策に向けた外部知見の活用について解説します。
1.物流危機をめぐる全体的な状況
日本の物流は今、構造的な危機に直面しています。この背景には、深刻な担い手不足、非効率な商慣行、EC市場の拡大による物流負荷の増大など、複数の構造的要因があります。
まず、深刻化するトラックドライバー不足が挙げられます。国土交通省の資料(※3)では、トラックドライバーの有効求人倍率は全産業平均の約2倍であることが示されており、構造的な人手不足が続いていることが伺えます。
さらに、全日本トラック協会が公表する(※4)「令和5年の道路貨物運送業 年齢階級別就業者構成比」を見ると50歳以上の就業者が約半数を占めており、40歳未満の若い就業者数は全体の24.9%、40歳以上、50歳未満が25.4%となっています。今後は高齢化による退職・離職の増加が見込まれ、担い手不足の加速が懸念されます。
次に、物流事業者の多くが中小規模であることも課題の一つです。全日本トラック協会傘下の約6万事業者のうち、9割超が中小事業者です。保有車両100台以上の大規模事業者は全体の2%にとどまっており、業界の大多数は限られたリソースで事業を運営しています。物流危機に対して問題意識を持つ事業者は8割に上る一方、実際に対策を講じている事業者は限られています。
さらに、EC市場の拡大による物流業界への負荷も要因の一つです。2023年時点のデータでは、BtoCの物販系EC市場の規模が14兆6,760億円に達しています(※5)。EC市場の拡大による少量を多頻度で輸送する非効率的な構造が、業界全体を圧迫しています。
こうした状況において、改革を担う専任人材の不在、自社物流の現状を数値で把握できていないことや日常業務に追われて中長期戦略に充てる時間がないこと、業界横断的な取り組みの不足などが、課題の深刻化を招いています。
物流の持続可能性を維持するためには、これらの課題を解決する必要があります。物流事業者だけでなく、荷主企業も含むサプライチェーン全体での取り組みが不可欠です。
(※3)出典:国土交通省 『物流を取り巻く動向と物流施策の現状・課題』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001888325.pdf
(※4)出典:公益社団法人全日本トラック協会『日本のトラック輸送産業 現状と課題 2024』
https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/yusosangyo2024.pdf
(※5)出典:経済産業省『令和5年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました』
https://www.meti.go.jp/press/2024/09/20240925001/20240925001.html
参考:国土交通省・経済産業省・農林水産省『持続可能な物流の実現に向けた検討会 中間とりまとめ』(2023年2月)
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001586286.pdf
2.対策が必要な「改正物流効率化法」
2024年5月に公布された改正物流効率化法は、2025年4月から2026年4月にかけて段階的に施行されています。
2025年4月の施行では、すべての荷主事業者に対して、荷待ち時間・荷役時間の短縮および積載効率の向上に関する措置が努力義務として課されました。
そして2026年4月からは、一定規模以上の事業者が「特定事業者」として指定され、より具体的な法的義務が課されることとなりました。この中でも、特定荷主に対する義務が「物流の2026年問題」として注目されています。
特定荷主に求められる4つの義務
前年度の年間取扱貨物量が9万トン以上の荷主企業は「特定荷主」として指定され、以下の4つの対応が義務付けられます。これらの義務に違反した場合には、罰則の対象となる可能性があります。(※6)
1)特定事業者としての届出
前年度の取扱貨物量が指定基準値を超えた場合は、速やかに主務大臣へ届け出る義務があります。
2)CLO(物流統括管理者)の選任
役員などの経営幹部から、物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)を選任することが義務付けられています。CLOは、組織を横断して物流に関する課題を統括し、経営戦略と連動しながらサプライチェーン全体の最適化を主導する役割を担います。
3)中長期計画の策定・提出
荷待ち・荷役時間の削減や積載効率の向上など、物流効率化に向けた具体的な目標と取り組み内容を盛り込んだ中長期計画(原則3〜5年)を策定し、毎年度、主務大臣に提出する必要があります。
4)定期報告
指定を受けた翌年度以降、毎年度7月末を期限として、努力義務の実施状況(荷待ち時間の実績、積載効率の改善状況など)を主務大臣に報告する義務があります。関連事業者との連携状況や施設の制約、業種特性なども可視化し、関係者との連携を促進することが求められます。
形式的な対応が招くリスク
上述の義務に対する対応が不十分な場合、国による指導・助言、勧告、さらには社名の公表と命令という段階的な行政措置が講じられ、最終的には罰金が科せられる可能性があります。一方で、見落とされがちなのが「形式だけを満たした対応」のリスクです。
例えば、中長期計画を前年の内容を焼き直して作成した場合、自社の実態に即した数値目標が設定されず、定期報告の段階でKPI未達が露呈します。さらに、定期報告を「過去1年の出来事の総括」として処理するだけでは、翌年度以降の改善サイクルが回らず、計画立案や報告提出そのものが目的化して、実効性のある改善活動につながらない恐れがあります。
しかし、現実的な取り組みを進めるためには、人材確保や知見の蓄積が大きな課題です。
(※6)出典:国土交通省『物流効率化法』理解促進ポータルサイト
https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp
参考:鈴与『物流の2026年問題とは?改正物流効率化法と荷主の対応ポイント』
https://www.suzuyo.co.jp/transport/column/what-is-2026mondai.html
3.自社による解決の障壁と外部知見の活用
改正物流効率化法への対応が必要であると認識しながら、具体的な行動に踏み出せていない荷主企業も多いのではないでしょうか。その背景には、以下のような社内課題が存在すると考えられます。
1)物流専任人材が不足している
企業の規模によっては物流業務が「総務部の兼務」や「外注任せ」となっているケースがあります。CLOに求められる経営視点と現場理解を兼ね備えた人材が、社内に存在しない場合があります。
2)自社の物流の実態が数値化・可視化されていない
中長期計画を策定するには、荷待ち時間・積載率・輸送コスト構造などの定量データがあることが前提となります。しかし多くの企業では、これらが体系的に管理されておらず、「感覚的に運用してきた物流業務」を急に数値化することは容易ではありません。
3)対応が必要と認識しながら「何が正解か」わからない
同業他社や他業界の企業がどのように対応しているか、どの改善手法が自社の業種・規模に有効かという業界横断的な情報は、社内にいる限り入手が困難です。優先順位や具体的な施策の選択に迷い、その結果、検討段階にとどまり、対応が先送りされるリスクが生じます。
4) 取引先との調整・交渉が進まない
物流効率化の多くは、運送会社・仕入先・納品先との商慣行の変更を伴います。リードタイムの見直し、発注頻度の変更、納品条件の再設定などは、取引関係に踏み込む交渉力を必要とし、社内だけの取り組みでは実現が難しいケースがあります。
荷主企業の内部に上述のような課題を抱えている場合に有効な取り組みの一つが、外部コンサルティングの活用です。その活用価値は、課題に対する「解決策」を得ることだけにとどまりません。「自社では見えない視点」で課題や改善機会を可視化し、課題解決に向けて実行フェーズまで伴走支援してくれる存在であることです。
例えば、物流に深い知見を持つコンサルティング会社であれば、以下のような価値提供が期待できます。
1)物流領域の専門的な知見 法令や規制に精通した専門家が、必要な対応の全体像を整理します。自社だけでは把握しきれない最新の業界動向や、法令の解釈にも対応が期待できます。 2)自社物流の現状把握と可視化 荷待ち時間・積載率・輸送コストの構造などを定量的に把握し、中長期計画の根拠となるデータ基盤を構築します。物流管理の高度化を進め、データに基づく意思決定を支援します。 3)業界横断のベンチマークと最適なソリューションの提案 同業他社や異業種での対応事例、業界標準のKPI水準など、社内では収集できない外部情報を活用して、自社の課題の所在と改善の優先順位を明確化します。客観的な比較を通じて、自社の状況の課題や改善余地を明確化できます。 4) 取引先との交渉支援と実行時の伴走 外部の専門家が介在することで、運送会社や納品先との商慣行変更に関する交渉や協議が円滑に進むケースは少なくありません。また、中長期計画の策定にとどまらず、PDCAの仕組み設計から現場への定着まで実行フェーズを伴走することで、計画の具体化を促進します。 |
4.「2026年の物流課題解決」のまとめ
2026年4月の改正物流効率化法の本格施行により、物流は「荷主企業が経営レベルで管理する戦略的なインフラ」へと位置づけられるようになりました。
一方で、問題意識を持ちながらも「何から着手すればよいかわからない」「社内に専門知識を持つ人材がいない」という状況に陥っている企業が多いのが現実です。
物流業界における課題は複合的であり、法令対応・データの可視化・取引先との交渉・社内体制の整備を並行で進める必要があるため、自社だけで完結するのは困難です。こうした中、物流コンサルティングの活用は、課題解決だけでなく、企業の競争力向上を実現する有効な施策です。
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