インターネットを経由してモノやサービスを売買するEC(Electronic Commerce)は、今や私たちの生活に必要不可欠なサービスとなりました。AmazonがリードしたEC市場のみならず、コロナ禍によるライフスタイルの変化によってEC市場は毎年成長しています。いつでもどこでも手元のスマホなどから商品を発注できるECには、正確かつスピーディーな物流オペレーションが求められます。このコラムでは、EC市場における物流の自動化についてお伝えします。
目次
成長を続けるEC市場
経済産業省が2023年8月に発表した「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」によると、日本の物販系分野のBtoC-EC市場規模は2013年以降、毎年拡大を続けています。2022年の市場規模は13兆9,997億円に達し、2013年の5兆9,931億円に対し約2.3倍も成長しています。また、物販系分野の2022年のEC化率は9.13%となっており2013年の3.85%に対し約2.4倍となっています。
引用:経済産業省 令和4年度 電子商取引に関する市場調査
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831002/20230831002-1.pdf
このようにEC市場が成長するなか、サービスに対する顧客ニーズも高まり、より簡単な発注方法やスピーディーな発送などが求められています。一方でEC利用者は現状のサービスに対して不満を感じています。
米国のEC業界向け専門誌『Digital Commerce 360』が、2021年9月に調査会社Bizrate Insightsと共同で実施したユーザーエクスペリエンスに関する調査では、リアル店舗とEC店舗を展開するオムニチャネルの在庫との不一致(28%)、現地店舗の在庫が確認できない(24%)、サイト上の在庫状況がわからない(23%)など物流と関連する不満が挙げられています。
引用:『Digital Commerce 360』が2021年10月、調査会社Bizrate Insightsと共同で実施したユーザーエクスペリエンスに関する調査(1000人のオンライン通販利用者が対象)
(日本語訳のサイト)
https://netshop.impress.co.jp/node/9157
EC市場に求められる物流の要件
拡大し続けるEC市場ですが、求められる物流の要件について、2つの視点から考えてみましょう。1つ目はEC利用者である顧客の視点からです。
ECではインターネット上のサイトで商品を選択します。注文ボタンをクリックし、決済(カード決済・銀行振込・コンビニ払い・着払いなど)を完了し、商品が届くまでが、顧客にとっての購買体験になります。こうした体験の多くの工程がスマホやPCなどの画面上で完結し、販売者と顧客のリアルな接点は商品の納品時のみとなることが多いのが特徴です。これら一連のプロセスに顧客を満足させることがリピートオーダーやECサイトの評価につながります。当然、スムーズな注文やスピーディーな発送、そして商品や外装の破損などがなく納品されることは必須要件です。
2つ目はEC物流サービスを提供する物流事業者側の視点です。リアル店舗とEC店舗で在庫を共有するオムニチャネルのケースでは、精度の高い在庫管理やリアルタイムで在庫データの更新が必要となります。例えば、商品の出荷と在庫データの更新にタイムラグがある場合、データ上では在庫があるのに現物の在庫がないといった状況が発生することがあります。こうした状況は販売機会の損失につながるため、物流事業者にはWMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)を活用したデジタルで高精度かつリアルタイムの在庫管理が必須要件です。
また、物流センターやフルフィルメントセンターでは、ブラックフライデーなどのイベントや販売セールなど、販売数が急激に増加した場合でも柔軟に対応できる能力が必要です。さらに誤出荷がないことやスピーディーな発送、丁寧な梱包なども必須要件です。
加えて考慮すべき点が物流業界の2024年問題です。トラックドライバーの時間外労働時間に上限が設けられ、ドライバーの残業時間が制限されます。そのため、出荷のカットオフタイム(締切時間)が早くなる事例も発生しています。
以上のような要件を満たすためには、物流センターや倉庫において効率的なオペレーションや生産性の向上を図る必要があります。
EC物流に求められる自動化
前述のような要件を実現するには属人的なオペレーションでは対応が難しく、物流センターなどの自動化が必要です。自動化によって属人的なプロセスから発生するヒューマンエラーを排除し、物流品質を高めることで、顧客満足の向上にも寄与します。
少子高齢化が進む日本では慢性的に人材不足であり、確保した人材の退職や離脱を予防することが必要です。平日の人的リソースを確保できても夜間や土日祝日の人材確保の状況によっては、現場のシフト管理が困難になることがあります。オペレーションを維持するため、人手に頼らずプロセスを自動化することも選択肢の1つです。
配送面ではトラックによる集荷のカットオフ(締め切り)時間が早くなり、従来は、トラックの出発時間など融通を効かせてもらうこともありましたが、これからはそれも難しくなります。カットオフ時間の繰り上げにより、倉庫内作業に充てる時間も短くなり、現場スタッフが時間に追われることで生じる作業ミスも増加します。
一方、上流である受注プロセスでも同様に人的ミスが生じる可能性が高まります。
EC物流自動化の具体的方法
EC物流の自動化を実現するために、物流センターやフルフィルメントセンターでは、受注・入庫・在庫管理・ピッキング・パッキング・出庫の一連のプロセスでマテハンや自動化機器、ロボットなどが導入されています。受注プロセスでは属人的なデータ入力処理をRPA(Robotic Process Automation)で自動化したり、オーダーマネジメントシステムとWMSを連携したりすることによって生産性の向上を図っています。
入出庫やピッキングの工程ではAGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)やAMR(Autonomous Mobile Robot:自律走行搬送ロボット)などマテハンを活用して倉庫スタッフの歩行距離を短縮しています。GTP(Goods To Person)の導入によりスタッフが商品をピッキングしに行かず、商品がスタッフの元に届けられます。
こうした自動化の実現にはデジタルツインによるオペレーションの最適化が注目されています。例えば、自動倉庫からの出庫ルートなどをシミュレーションすることで、最短経路での出庫や、現実世界で見えてこなかった課題の分析をすることで解決策を事前に検討できるようになります。デジタルツインはモノ・機械・人の作業を可視化し、デジタル空間でシミュレーションすることによって、オペレーションの最適化を実現することができます。
EC物流に求められる自動化の考え方
EC物流の自動化を検討する際には、スタッフの移動距離や歩数を減らすことが大きなポイントです。ピッキングのために広い倉庫内を歩き回ることは作業時間がかかるだけでなくスタッフの疲労や作業ミスを招き、スタッフの離脱や定着率の低下にも影響があります。
従来、物流システムの構築は拡大と成長の思考に基づいたものでした。しかし、変化の早いEC市場では物流波動も大きく変動します。ECビジネスの規模にもよりますが、要件定義をしっかりと行うことが重要です。また、一般的に物流は常に変化し続けるため、改善と最適化に終わりはありません。物流工程の完全自動化も選択肢の1つではありますが、環境変化に柔軟に対応できる属人的な工夫の余地を残すことも必要だと思います。EC物流にはビジネスの縮小も含めた変化に対して、柔軟かつスピーディーに応えられる自動化が必要です。
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