今回は、物流業とその種類について紹介します。
目次
1.「物流業」のイメージ
「物流業」というワードを聞いた時、何を最初にイメージしますか?
物流業にあまり関わりのない一般の方であれば、日常的に利用するヤマト運輸の「宅急便」や日本郵便の「ゆうパック」のような、国内貨物輸送に関するサービスやその会社をイメージする方が多いかもしれません。
しかし、「物流業」とは物の流れに関する多種多様な業種の総称であり、国内貨物輸送業のみを指す言葉ではありません。世間的にはイメージされにくく、認知されていないその他物流に関する業種も「物流業」に含まれています。
例えば、倉庫業も物流業の1つです。
筆者は倉庫業に属する会社で働いていましたが、具体的に倉庫業がどのような業務をしているのか、それを正確に理解している方にはあまり出会いませんでした。
倉庫業も物流において大変重要な役割を担う業種であるにも関わらず、一般の方が利用する身近なサービスではないため、筆者としては大変残念ではありますが、「物流業」と聞いて、真っ先にイメージされる業種ではありません。
そこで今回は、多くの方に物流業についてより深く知っていただくために、「物流業とは何か?」、「物流業の中にはどのような業種があるのか?」の2つを主なテーマとしてお伝えしていきます。
2.物流業とは

一般的に、モノが作られてから消費者に届くまでの一連の流れのことを物流、それを事業として行うことを物流業と呼んでいます。
モノが消費者に届くまでに非常に多くの物流関係者が関わっています。モノの種類、性質、数量などによって物流手段は異なり、その仕組みは大変複雑です。
例えばモノが冷凍食品である場合は、途中で解凍してしまうことがないよう冷凍倉庫で保管し保冷車両で輸送する、などモノによって物流手段が異なるポイントが変わってきます。
3.モノの流れ(輸入の場合)
例えば海外で作られたモノが日本の消費者へ届けられるとき、次のようなモノの流れがあります。
消費者に無事にモノが届くのは、物流に携わるすべての関係者がそれぞれの業務を遂行しているからです。
(1)外国の工場などでモノが作られる
(2)外国の港や空港などへ輸送される
(3)外国で輸出通関手続きが行われる
(4)船や飛行機で日本へ輸送される
(5)日本で輸入通関手続きが行われる
(6)倉庫へ輸送される
(7)倉庫で保管される
(8)倉庫から出荷される
(9)トラックなどで輸送される
(10)消費者に届けられる
4.物流会社と運送会社の違い

物流業界には「物流会社」と「運送会社」という2つの主要なプレイヤーが存在していますが、それぞれの役割には明確な違いがあります。
物流会社とは
物流会社とは、その代表的な業務である「商品の保管、加工、荷役、梱包、輸配送、情報管理」に幅広く対応する企業のことです。倉庫管理、在庫管理、輸送計画、配送経路の最適化など、サプライチェーン全体を効率的に運営するために、情報システムを導入してコスト削減や業務効率化を図る企業が増えています。
運送会社とは
運送会社は、商品の「運送」を専門とする企業です。トラック、船舶、航空機などの輸送手段を用いて、国内外の様々なルートで商品を運びます。物流会社の一部として機能することもありますが、主に輸送に特化しています。
5.物流業の種類
モノが消費者に届くまでには非常に多くの物流業者が関わっています。法令などで明確に定義付けされている業種や、そうではない業種もあります。
ここでは、モノの流れで代表的な業種をいくつか紹介します。
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SDGsと物流の関連性 ~SDGsの観点から自社の物流事業を見直してみよう~ |
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(1)空運業
飛行機を使用して人やモノを運送する業種のことです。
乗客と共に貨物室スペースにモノを搭載する飛行機のほか、乗客のいない貨物専用の飛行機も使用されています。
島国である日本にとってはモノを運ぶ手段として空運は大変重要です。飛行機はスピーディにモノを運ぶことができます。
日本の代表的な空運業者は、全日本空輸株式会社、日本航空株式会社などがあります。
(2)海運業
船を使用して人やモノを運送する業種のことです。
空運とともに、島国である日本にとってモノを運ぶ重要な手段のひとつです。日本の輸出入の大部分が船によって行われてます。
飛行機よりも輸送日数はかかりますが、低コストで大量にモノを運ぶことができます。
日本の代表的な海運業者は、日本郵船株式会社、株式会社商船三井、川崎汽船株式会社などがあります。
2017年にはこの3社によって定期コンテナ船事業を行うオーシャンネットワークエクスプレスホールディングス株式会社(通称ONE)が設立されました。
(3)陸運業
トラック、トレーラー、鉄道などの陸上移動手段によって人やモノを運送する業種のことです。
飛行機や船で運ばれてきたモノも、消費者までの最終ルートは陸上となります。「物流の2024年問題」で懸念されているドライバー不足の問題を解消するための手段として、トラック輸送から鉄道輸送への切替え、いわゆる「モーダルシフト」が注目されています。
日本の代表的な陸運業(貨物)は、日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)、ヤマト運輸株式会社などがあります。
(4)港湾運送(荷役)業
港湾運送は、港湾運送事業法第2条※1によって定義されています。船で運ばれてきたコンテナの受取り、引渡しなどを行う業種のことです。
日本では港湾事業を行うためには国の許可が必要となっています。
日本の代表的な港湾運送業者は、鈴与株式会社、株式会社上組、株式会社宇徳などがあります。
※1 参考:e-GOV法令検索 港湾運送事業法 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0100000161/20230616_505AC0000000063
(5)通関業
通関業は、通関業法※2によって定義されています。
日本を含め多くの国ではモノの輸出入をする場合は輸出入申告などが必要です。日本では、輸入者や輸出者の代わりに通関業者にその手続きを委任することが可能であり、財務大臣の許可を受けて通関を業として行う業者を通関業者といいます。
通関業の許可を受けている物流会社は多く、他の事業と併せて業務を引き受けるケースが多くなっています。
※2 参考:e-GOV法令検索 通関業法 https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000122
(6)海コン業
海上コンテナをトレーラーで輸送する業種のことです。
輸送するドライバーを海コンドライバー、輸送を引き受ける業者を海コン業者と呼ばれます。海コン業者は、日本に輸入した海上コンテナを港から荷主の指定地まで、または、日本から海外へ輸出する海上コンテナを港まで輸送します。
(7)一般貨物自動車運送業
貨物自動車運送事業法※3によって定義されています。トラックなどの自動車を用いて貨物を運送する業種のことです。
事業を行うためには国土交通大臣の許可を受けなければなりません。
※3 参考:e-GOV法令検索 貨物自動車運送事業法 https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000083
(8)倉庫業
倉庫業は、倉庫業法第1章第2条2※4によって定義されている寄託を受けた物品を倉庫に保管する業種のことです。
消費者へ安定してモノを供給するために重要な役割を担っています。倉庫にも様々な種類があり、普通倉庫、冷蔵倉庫、冷凍倉庫、危険品倉庫などがあります。
貨物の種類によって最適な種類の倉庫が異なります。さらに、生鮮食品を専門に取扱う倉庫、医薬品を専門に取扱う倉庫など、倉庫によっては取扱う貨物の得意分野がある場合もあります。
日本の代表的な倉庫会社は、三井倉庫株式会社、三菱倉庫株式会社、鈴与株式会社などです。
※4 参考:e-GOV法令検索 倉庫業法 https://laws.e-gov.go.jp/law/331AC0000000121
(9)倉庫荷役業
倉庫荷役業は、物流施設で入庫、出庫、ピッキング(取出し)などの作業を行う業種のことです。物流施設で作業するので、多くの場合は倉庫業の会社やその関係会社が担っています。
(10)総合物流業
モノが作られてから消費者に届くまでの一連の物流の全てまたはその大部分を提供する業種のことです。
荷主が総合物流業者に物流業務をまとめて依頼できるので、個別に複数業者に依頼するよりも荷主の負担が軽いというメリットがあります。
上場企業を中心に、大部分の大手物流会社は総合物流業に属しています。

6.物流業界の市場規模
国土交通省の調査※5によると、2020年度の市場規模(営業収入)は約28兆円に達しています。2020年に国内で初めて確認された新型コロナウィルス感染症の影響により、EC(電子商取引)の普及や消費者の購買行動に大きな変化があり、物流業界の成長を後押ししています。
※5 参考:国土交通省「我が国の物流を取り巻く動向について」https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001709358.pdf
7.物流業界の課題

成長著しい物流業界ですが、以下のような課題に直面しています。
(1)ドライバー不足
少子高齢化により、トラックドライバーの確保が難しくなっています。労働環境の改善や賃金の引き上げなどが効果的な対策としてあげられます。
(2)物流コストの増加
燃料費や人件費の高騰が物流コストを押し上げています。共同配送やモーダルシフトの導入などが注目されています。
(3)長時間の荷待ち・荷役作業
荷主や物流施設の都合により、長時間の荷待ちや荷役作業が発生しています。物流拠点の集約や輸配送の共同化による効率化が期待されています。
(4)CO2排出量の削減
環境問題への対応として、CO2排出量の削減が求められています。電動トラックの導入や再生可能エネルギーの利用が推進されています。
これらの課題を解決することで、物流業界は持続可能な成長を遂げることが期待されています。
8.物流関連業の種類
最後に、いくつかの物流関連業を紹介します。モノの流れに直接的に関与しないものの、物流品質の向上に必要不可欠な業種です。
(1)物流関連システム業
在庫管理システム、配送ルート管理システムなど、物流関連システムは物流会社などが業務遂行するために必要不可欠です。物流関連システム業は幅広く様々な種類のシステムを提供する会社があります。
昨今、政府により物流DXが推進されていることもあり、物流関連システムを提供する会社が大変注目されています。
(2)物流不動産業
物流施設の開発、管理などを担う業種のことです。
物流不動産業者が物流会社などに物流施設のスペースを貸し出し、その施設賃料を収受しています。スペースを借りた物流会社にとっては、先進的な物流施設で事業を行うことができるというメリットがあります。
日本での代表的な物流不動産業は、株式会社プロロジス、日本GLP株式会社、大和ハウス工業株式会社などがあげられます。
(3)物流コンサルティング業
物流会社や倉庫会社、製造業や販売業で物流機能をもつ会社などに対して、物流の改善を提案する業種のことです。
物流業は幅が広く複雑であるため、専門的な知識を持つコンサルタントがクライアントを支援することで、業務の効率化や円滑な業務の遂行が期待されます。
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物流コンサルティングの重要性。他者の視点で自社を見る |
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9.まとめ
今回は物流業とその種類について紹介しました。
言葉では一括りにされてしまう「物流業」ですが、その中には多種多様の業種があることをご理解いただけたと思います。
みなさまのお手元のあらゆるモノは、多く物流業者によって届けられています。