全国各地で物流不動産の建設が増加しています。
2024年秋には、東京都郊外の昭島市に建設予定の巨大な物流センターのニュースが話題になりました。
ゴルフコースの跡地に建設されるこの大規模な物流センターはJR昭島駅から徒歩約10分という抜群のアクセスの良さを誇り、敷地面積は約58万8000平方メートルと、サッカーグラウンド(※1)約82個分の広さに相当します。
国内最大規模を誇る施設となる見通しのため、注目を浴びています。
このコラムでは物流不動産が増加している背景やこれまでの倉庫と異なる点についてお伝えしていきます。
(※1)Jリーグのサッカーグラウンドの広さは7,140平方メートル
目次
1.物流不動産とは賃貸不動産の一種
物流不動産とは、物流業務を行うための施設として第三者へ賃貸される、倉庫や物流センターなどの施設を指します。
物流不動産はユーザーが利用する賃貸面積に応じた賃料を受け取ることで成立するビジネスモデルです。
保管する貨物や荷物の量に応じて課金される点が従来の倉庫と異なります。国土交通省のホームページでは、物流不動産を次のように説明しています。
物流不動産とは ▷物流不動産とは、物流業務を行うための施設として第三者へ賃貸される、倉庫・物流センター等の建物。 ▷物流不動産のビジネスモデルの特徴として、賃貸面積に応じた賃料を収受することで成立することが挙げられる。 (⇔従来型の倉庫業は、輸送・保管量に応じた料金を収受) ▷施設の特徴として、ダブルランプウェイ、免震・制震構造、太陽光発電など、倉庫・物流センターとしての機能拡充に資する最新鋭設備を備えた物件が増えているほか、カフェテリア、託児所など従業員の働きやすさに配慮した物件の開発も進んでいる。 |
(※)引用:国土交通省『物流不動産とは』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_tk1_000146.html
2.物流不動産と従来型の倉庫との違い
物流不動産がこれまでの倉庫と異なる点について、具体的に説明します。
まず、ビジネスモデルの違いがあげられます。
物流不動産は物流センターなどの施設を、複数のテナントや荷主に賃貸し、その賃料を収受することによって成立しています。
例えると投資用マンションのように、部屋を賃貸することによって収益をあげるモデルです。
但し、物流不動産があらかじめ部屋の面積が決まっている投資用マンションと異なっている点は、保管する荷物や貨物の量によって賃貸契約のスペースが可変する点です。
また、これまでの倉庫は、利用する荷主の数は1社ないしは数社とそれほど多くありませんが、物流不動産は多数のテナントや荷主と契約し、さまざまな物流ニーズに対応しています。
次に立地や施設面の違いです。
これまでの倉庫は、貨物や荷物の保管に重点をおいているため、輸出入に適した港湾エリアや空港周辺などに建設されています。
しかし、物流不動産は大都市圏などの消費地に近く、高速道路や幹線道路沿いでトラック輸送に適した内陸部に建設されるケースが多くみられます。
物流不動産は施設面でもさまざまな特徴があります。
例えば、トラックが施設の各階に直接乗り入れることができるランプウェイが多く設置されている点です。
さらに上りと下りに分けたダブルランプウェイを採用し、トラックを一方通行にすることで動線の交錯回避や、場内の安全性向上を図っています。
従来の倉庫では地上1階のトラックバース周辺で入出庫の作業をするケースが多いため、1階と上階の保管スペース間はエレベーターや垂直搬送機を介して荷物を移動する必要がありました。
しかし物流不動産はトラックが直接各階にアクセスできるため、動線や作業時間の削減ができ生産性が向上します。
さらに物流不動産は、ロボット導入などの自動化や省人化に対応可能な施設の設計や、トラックの中継輸送や、ドローン配送のハブなど高度なニーズに対応する次世代の物流プラットフォームとしてデザインされています。
またカフェや託児所の設置など、従業員の働きやすさに配慮した施設もあります。
さらに屋上に太陽光発電のパネルを設置してエネルギーの自給自足を実現したり、公園のような植栽豊かなオープンスペースを設置したりすることで、環境に優しい施設作りにも取り組んでいます。
3.物流不動産が増加する背景
国土交通省の資料によると、大型マルチテナント型物流不動産の貸室総面積と入居面積は2013年以降、急速に増加しています。
こうした背景にはさまざまな要因があげられます。
(※)引用:国土交通省「物流拠点を取り巻く環境の変化や課題、P27 各物流拠点の規模及び入居率の推移(物流不動産)」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001841023.pdf
老朽化した倉庫の多くは、最新設備導入が困難で、ビジネス環境の変化や新たな市場ニーズに適合しないケースが増えています。
少子高齢化や担い手不足により物流DX化が進む中、属人的なオペレーションを前提とした旧来の倉庫では、新しいテクノロジーを導入しようとしても、柔軟性や拡張性に制限が生じるケースがあります。
また、通勤に負担がかかる沿岸部の立地など、アクセス面に課題を抱えているケースもあります。
こうした旧来の倉庫が抱える様々な課題の解決策の1つとして、物流不動産が注目されています。
また、EC市場の発展による翌日配送やジャストオンタイムを要求する顧客ニーズの高度化・多様化により、多頻度小口配送が進展しました。
こうした背景から、物流センターに対する役割も大きく変化しています。
従来の保管機能を中心とする「保管型倉庫」から、在庫を置かない「スルー型物流センター」いわゆるTC(Transfer Center) へシフトし、さらに大規模かつ高度な機能を持つ物流センターであるFC(Fulfillment Center)のニーズが高まり、物流不動産の建設が増加しています。
さらに不動産投資の環境整備が進んだことも物流不動産が増加した背景の1つです。
不動産証券化やREITの登場によって環境整備が進み、投資対象がオフィスやマンションなどの住宅から、物流センターにも拡大したことが後押しとなっています。
物流不動産の領域には倉庫業・物流業だけでなく、国内外の不動産会社やデベロッパー、ハウスメーカーなども参入しています。
(※)引用:国土交通省『物流不動産の隆盛の背景や理由(サマリー)』
https://www.mlit.go.jp/common/001232171.pdf
4.新たな物流拠点としての物流不動産
2024年10月、国土交通省において「第1回 物流拠点の今後のあり方に関する検討会」が開催されました。
公開された資料によると、「物流拠点を取り巻く環境の変化や課題」がテーマの1つとして挙げられました。この中で物流拠点がこれまで担ってきた「もの」の移動や保管だけではなく、以下の様な新たな役割・機能が求められています。
①物流2024年問題・気候変動等を踏まえた物流の変化への対応 ②自動運転等のGX(Green Transformation:グリーントランスフォーメーション)・DXに係る新技術への対応 |
(※)引用:国土交通省「物流拠点を取り巻く環境の変化や課題、P12 議論の柱」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001841156.pdf
さらに、物流センターには最新テクノロジーへの対応だけでなく、地域との連携や、地域へもたらす経済効果の拡大、災害時の物流拠点としての活用など、地域・社会との新たな接点として従来の枠組みを超えた取り組みが期待されています。こうしたさまざまな課題を解決するのが物流不動産の大きな特徴です。
鈴与シンワートは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を生かし、物流課題に対する最適なソリューションを提案します。また物流センターのオペレーション設計に関しても、物流コンサルティングやデジタルツイン技術を活用し、最適なソリューションを提案することができます。
是非お気軽にご相談ください。地域・社会との新たな接点として従来の枠組みを超えた取り組みが期待されています。
https://www2.shinwart.co.jp/l/907272/2021-11-28/39gg2