第17回 「SCM(サプライチェーンマネジメント)」の課題と解決~中小企業のSCMに視点を~

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第17回 「SCM(サプライチェーンマネジメント)」の課題と解決~中小企業のSCMに視点を~

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第17回 「SCM(サプライチェーンマネジメント)」の課題と解決~中小企業のSCMに視点を~

公開 :2024.09.05 更新 : 2025.05.14

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1.SCMとは?

サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management)は略してSCMとよばれています。SCMとはサプライチェーン(供給連鎖)を管理することであり、原材料や部材の調達、設計、製品の製造、物流を経て販売に至る一連の工程を最適化し、効率的に行うための管理手法です。
企業の経営管理に有益な手法ですが、取り組みにあたりさまざまな課題があります。

サプライチェーンマネジメントの全体イメージ

日本産業規格『JISZ8141:2001 生産管理用語』では、サプライチェーンマネジメントを以下のように定義しています。
以下 日本産業規格『JISZ8141:2001 生産管理用語』より抜粋

2309 サプライチェーンマネジメントとは


資材供給から生産,流通,販売に至る物又はサービスの供給連鎖をネットワークで結び,販売情報,需要情報などを部門間又は企業間でリアルタイムに共有することによって,経営業務全体のスピード及び効率を高めながら顧客満足を実現する経営コンセプト。

備考 SCMの目標は,キャッシュフローマネジメントを実現するとともに,最新の情報技術及び制約理論,APSというサプライチェーン計画などの管理技術に基づき,市場の変化に対してサプライチェーン全体を俊敏に対応させ,ダイナミックな環境のもとで部門間や企業間における業務の全体最適化を図ることである。

(※)引用:日本産業規格『JISZ8141:2001 生産管理用語』 https://kikakurui.com/z8/Z8141-2001-01.html

SCMはメーカー・卸売業者・物流業者・小売業者などさまざまな企業がステークホルダーとして関わります。また自社内でも部門横断で、業務プロセスなどの情報をリアルタイムでやりとりする必要があります。SCMは各企業・各部門の垣根を越え、原材料の調達を行う上流工程から、製品が消費者の手に届くまでの下流工程までの最適化を実現する取り組みです。

2.SCMのメリット

SCMは生産・流通・販売に至る供給連鎖において、コストや時間の無駄を最小限に抑え効率的なオペレーションの実行やリソースの最適な管理を実現します。
SCMでは「モノ」「金」「情報」をステークホルダー間で共有することによって、利益の拡大や事業の継続的な発展を目指すことができます。SCMはサプライチェーン上の全てのステークホルダーとプロセスの最適化を図ります。以下にSCMのメリットについて列記します。

1)精度の高い需要予測と適正な供給の実現

需要予測はSCMの極めて重要な要素であり、サプライチェーンのプロセスの上流に位置します。市場や販売先からの需要に関する予測や在庫状況、生産状況を加味した上で、精度の高い需要予測をたてることで製品の適正な供給を実現します。

2)リードタイムの削減

サプライチェーンのプロセスの無駄を省くことで、原材料などの調達から製品の納品までのリードタイムの削減や納期の短縮を図ることができます。

3)コスト削減

供給の最適化によって、さまざまなコストを削減できます。例えば仕入れ先を見直すことによって、原材料などの調達コスト削減につながります。また遠距離に位置する仕入れ先を近距離の仕入れ先に変更することで、輸送コスト削減だけでなくリードタイムの短縮も可能にします。

4)過剰在庫・機会損失の回避と売上の最大化

需要予測の精度向上によって、適正な在庫を維持できます。その結果、属人的な経験則に基づく需要予測によって発生する過剰在庫や、欠品による販売の機会損失を回避することができます。

5)生産性の向上

サプライチェーンの混乱や非効率なプロセスを可視化することで、物流拠点の最適な配置や効率的な輸送ネットワークを実現します。また物流拠点内の最適な動線設計など、オペレーションの生産性向上にもつながります。

6)スピーディーな経営判断への貢献

SCMはサプライチェーンの上流から下流に至るプロセスのデータ化やモニタリングによってサプライチェーンの状態を可視化し、課題やリスクを洗い出すことができます。こうした施策は、市場や取引先の状況をリアルタイムに把握し、環境変化に応じたスピーディーな経営判断を可能にします。

3.SCMの注意点

SCMはサプライチェーン上の全てのステークホルダーとプロセスの最適化を図ることができるなどのメリットを解説してきましたが、SCMの導入には注意すべきポイントもあります。以下にSCM導入時の注意点を列記します。

1)SCM導入にかかるコストと時間

SCMの導入には、戦略の策定やシステム導入などのコストが発生します。また、SCMを実施するための人材確保も重要ですが、確保までに多くの時間がかかります。導入前にこれらの要素を十分に検討し、計画を立てる必要があります。
さらに、導入後の運用コストも計画に含めることで、長期的な視点での投資効果を評価することができます。実際の導入には業務フローの見直しや従業員の教育も含まれるため、継続的な投資と時間が求められます。
戦略の策定や計画立案には、物流コンサルティングサービスなどによる専門家の意見を取り入れることも有効な手段です。

2)SCM導入による業務の複雑化リスク

SCM導入による業務の複雑化は、時として企業にとって大きな負担となります。原材料の調達、製品の生産や販売、包装や配送、品質チェック、在庫管理など多岐にわたって業務を管理しなければならないため、計画的なプロセス設計が必要です。
業務の複雑化によるリスクを最小限に抑えるため、プロセスの見直しと最適化を継続的に行うことが重要です。

4.日本の中小企業のSCMの課題

以下に現在の日本(2025年時点)においてSCMの課題となっているトピックについてお伝えします。

1)物流の2024年問題による輸送資源の不足

2024年4月から働き方改革関連法の一部施行により、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に規制されました。この規制により従来のように長時間残業して物を運ぶことが難しくなりました。運送の担い手の高齢化と若年層のなり手が減少していることから、トラックドライバーの確保と定着が大きな課題となっています。
運送事業者の多くは中小企業です。人材確保や収益確保が困難になったことで、多くの企業が倒産や廃業の危機に直面しています。トラックドライバーだけでなく運送事業者など物流の担い手不足を補完する「輸送資源の確保」はSCMの大きな課題です。

これからは少ない輸送資源の効率的な運用がますます重要となります。また、荷待ち時間の削減など、運送事業者はいかにして取引先の発荷主・着荷主の意思決定に関与するかといった点も課題となっています。

物流の2024年問題によってトラックドライバーはこれまで以上に希少な輸送資源となりました。極論ですが、「製品は製造した、売り先もある。でも運ぶ手段がない」といった状態が将来的に発生する可能性があります。

2)中小企業における事業承継およびサプライチェーンの欠落と断絶の課題

中小企業庁の資料によると日本の企業数は337.5万者(社)となっています。そのうち、大企業は1万364者(社)で全体のわずか0.3%にすぎません。99.7%は中小企業であり、その数は336.5万者(社)です。(※)また中小企業は減少傾向にあり、当該資料によると1年当たり4.3万者(社)減少しています。

(※)引用:中小企業庁『中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)』
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2023/231213chukigyocnt.html

こうした中、サプライチェーンの一部を構成する中小企業は、経営者の高齢化や後継者不足などによる事業承継の課題を抱えています。特に製造業が集積している地域では、部品を製造する中小企業の廃業によってサプライチェーンを構成する鎖の1つが欠けてしまうことで、サプライチェーンが断絶され製造業への部品供給が困難になる懸念があります。

特に、唯一無二の技能を持ったベテラン職人によって製造されたパーツなどは、最終製品の構成要素の1つとして不可欠なものもあるでしょう。技能が継承されずこうしたパーツの供給が滞りかねない状況が生まれる中、今まで「下請け企業の問題」と片付けていた大企業も無関係ではいられない状況になりつつあります。
また、こうした背景から中小企業を存続させるためのM&Aも活発になっています。

5.中小企業におけるSCMの課題

経営の効率化や全体最適化の観点からSCMは有効な手法でありながら、中小企業ではさまざまな課題を抱えています。中小企業のSCMに関わる課題について以下列記します。

1)専門的人材の不足

人的リソースが限られる中小企業では、物流専任の人材も限られます。そのため、日々のオペレーションを優先し、高い視座から物流戦略を検討する時間も限られます。

また、業務多忙で時間不足になることによって、業界の最新動向の把握や情報入手に時間が割けないこともあります。こうしたことから物流設備やマテハン更新の際も多種多様な最新のシステムから自社に適したシステムを選定するのではなく、既存のシステムを単純にリプレースするだけで済ますことが多く見受けられます。

2)課題解決の最適な選択肢

SCMの課題解決のためには過大な投資リスクを回避する必要もあります。課題解決の選択肢も多岐にわたるため、いったいどの方法が最適なのか選択に悩むことも多いと思います。課題解決のキーもDX、自動化、省人化、ロボット、AI、マテハンなど多種多様です。将来的な事業の成長だけでなく、事業環境の変化により事業を縮小する視点からも、最適なソリューションを検討し投資判断をする必要があります。

6.中小企業におけるSCMの課題解決の方法

上述のように人的リソースやコストが限られる中、多種多様なソリューションから最適な選択をすることは、中小企業の大きな悩みになります。

また、課題解決策の立案を特定の企業に頼るのではなく、複数の企業が提供するツールやパーツを組み合わせて課題解決を図ることもできます。さらに将来の事業の見通しを考慮した上で、最適な投資判断も必要となります。

こうしたケースでは豊富な実績や経験、知見があり、現場視点だけでなく経営の視点も考慮した提案ができるベンダーフリーのコンサルティング会社に相談することをお勧めします。

7.鈴与シンワートの物流ITコンサルティングサービス

鈴与シンワートは、「鈴与グループが持つ物流業務のノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を活かし、ITで物流課題を解決するベンダーフリーの物流ITコンサルティングを提供しています。
なかでも鈴与シンワートのデジタルツイン技術を活用した物流ITコンサルティングは、製造業などの中小企業を悩ませている物流の課題解決に最適な提案をします。
是非お気軽にお問い合わせください。

https://www2.shinwart.co.jp/l/907272/2021-11-28/39gg2

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著者:蜂巣 稔

蜂巣 稔(はちす みのる)1967年生まれ。東京都出身。 大学卒業後、米国系のIT企業に入社。営業職を経てバックオフィスで輸出入、国内物流を担当。1999年通関士試験合格。 2002年に日本コカ・コーラ株式会社に転職。SCM(サプライチェーンマネジメント)部門にて一貫して国内輸送、3PL、在庫最適化、供給計画立案、購買業務に従事。飲料原料のサプライチェーンの上流から下流まで精通。 2021年日本コカ・コーラ株式会社を退職し起業。葉山ウインズ合同会社を設立。宣伝会議(株)編集・ライター養成講座43期卒業。上阪徹のブックライター塾第9期卒業。ダイレクト出版(株)セールスライター認定コース修了。物流ライターとして活動中。大手上場企業のオウンドメディアにてDXに関する記事も執筆中。

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