SCM(サプライチェーンマネジメント)は企業の経営管理に有益な手法ですが、取り組みにあたり、さまざまな課題があります。このコラムではSCMとはなにか、SCMのメリット、中小企業が抱えている課題やその解決策についてお伝えします。
目次
1.SCMとは
サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management)は略してSCMとよばれることが一般的です。SCMとはサプライチェーン(供給連鎖)を管理することであり、原材料や部材の調達、設計、製品の製造、物流を経て販売に至る一連の工程を最適化し、効率的に行うための経営管理手法です。
日本産業規格『JISZ8141:2001 生産管理用語』では、サプライチェーンマネジメントを以下のように定義しています。
以下 日本産業規格『JISZ8141:2001 生産管理用語』より抜粋
2309 サプライチェーンマネジメントとは
資材供給から生産,流通,販売に至る物又はサービスの供給連鎖をネットワークで結び,販売情報,需要情報などを部門間又は企業間でリアルタイムに共有することによって,経営業務全体のスピード及び効率を高めながら顧客満足を実現する経営コンセプト。 備考 SCMの目標は,キャッシュフローマネジメントを実現するとともに,最新の情報技術及び制約理論,APSというサプライチェーン計画などの管理技術に基づき,市場の変化に対してサプライチェーン全体を俊敏に対応させ,ダイナミックな環境のもとで部門間や企業間における業務の全体最適化を図ることである。 |
(※)引用:日本産業規格『JISZ8141:2001 生産管理用語』
https://kikakurui.com/z8/Z8141-2001-01.html
SCMにはメーカー・卸売業者・物流業者・小売業者などさまざまな企業がステークホルダーとして関わります。また自社内でも部門横断で、業務プロセスなどの情報をリアルタイムでやりとりする必要があります。SCMは各企業・各部門の垣根を越え、原材料の調達を行う上流工程から、製品が消費者の手に届くまでの販売工程までの最適化を実現する取り組みです。
2.SCMのメリット
SCMは生産・流通・販売に至る供給連鎖において、コストや時間の無駄を最小限に抑え、効率的なオペレーションの実行やリソースの最適な管理を可能にします。SCMでは「モノ」「金」「情報」をステークホルダー間で共有することによって、利益の拡大や事業の継続的な発展を目指すことができます。SCMはサプライチェーン上の全てのステークホルダーとプロセスの最適化を図ります。SCMのメリットについて列記します。
1)精度の高い需要予測と適正な供給の実現
需要予測はSCMの極めて重要な要素であり、サプライチェーンのプロセスの上流に位置します。市場や販売先からの需要に関する予測や在庫状況、生産状況を加味した上で精度の高い需要予測をたてることで製品の適正な供給を実現します。
2)リードタイムの削減
サプライチェーンのプロセスの無駄を省くことで、原材料などの調達から商品の納品までのリードタイムの削減や納期の短縮を図ることができます。
3)コスト削減
供給の最適化によってさまざまなコストを削減できます。例えば仕入れ先を見直すことによって原材料などの調達コスト削減につながります。また遠距離に位置する仕入れ先を近距離の仕入れ先に変更することで、輸送コスト削減のみならずリードタイムの短縮も可能にします。
4)過剰在庫・機会損失の回避と売上の最大化
需要予測の精度向上によって適正な在庫を維持できます。その結果、属人的な経験則に基づく需要予測によって発生する過剰在庫や、欠品による販売の機会損失を回避することができます。
5)生産性の向上
サプライチェーンの混乱や非効率なプロセスを可視化することで、物流拠点の最適な配置や効率的な輸送ネットワークの実現を目指すことができます。また物流拠点内の最適な動線設計などオペレーションの生産性向上にもつながります。
6)スピーディーな経営判断への貢献
SCMはサプライチェーンの上流から下流に至るプロセスのデータ化やモニタリングによってサプライチェーンの状態を可視化し、課題やリスクを洗い出すことができます。こうした施策によって、市場や取引先の状況をリアルタイムに把握し、環境変化に応じたスピーディーな経営判断が可能になります。
3.日本の中小企業のSCMの課題
この章では現在の日本(2024年時点)においてSCMの課題となっているトピックについてお伝えします。
1)物流の2024年問題による輸送資源の不足
2024年4月から働き方改革関連法の一部施行によりトラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に規制されました。この規制によりこれまでのように長時間残業して物を運ぶことが難しくなりました。輸送の担い手の高齢化と若年層のなり手が減少していることから、トラックドライバーの確保と定着が大きな課題となっています。運送事業者の多くは中小企業です。人材確保や収益確保が困難になったことで倒産や廃業の危機に直面しています。トラックドライバーのみならず運送事業者やトラックなど物流の担い手不足を補完する「輸送資源の確保」はSCMの大きな課題です。
これからは少ない輸送資源の効率的な運用がますます重要になります。また、荷待ち時間の削減など、運送事業者はいかにして取引先の発荷主・着荷主の意思決定に関与するかといった点も課題となっています。
物流の2024年問題によってトラックドライバーはこれまで以上に希少な輸送資源となりました。極論ですが、「製品を製造した、売り先もある。でも運ぶ方法がない」といった状態が将来的に発生する可能性があります。
2)中小企業における事業承継とサプライチェーンの欠落と断絶の課題
中小企業庁の資料によると日本の企業数は337.5万者(社)となっています。そのうち、大企業は1万364者(社)で全体のわずか0.3%にすぎません。99.7%は中小企業であり、その数は336.5万者(社)です。(※)また中小企業は減少傾向にあり、当該資料によると1年当たり4.3万者(社)減少しています。
(※)中小企業庁『中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)』
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2023/231213chukigyocnt.html
こうした中、サプライチェーンの一部を構成する中小企業は、経営者の高齢化や、後継者不足などによる事業承継の課題を抱えています。特に製造業が集積している地域では、部品の製造を行う中小企業の廃業によって、サプライチェーンを構成する鎖の1つが欠けてしまうことで、サプライチェーンが途絶し、製造業への部品供給が困難になる懸念があります。
特に、唯一無二の技能を持ったベテラン職人によって製造されたパーツなどは、最終製品の構成要素の1つとして不可欠なものもあるでしょう。技能が継承されずこうしたパーツの供給が滞りかねない状況が生まれる中、今まで「下請け企業の問題」と片付けていた大企業も無関係ではいられない状況になりつつあります。また、こうした背景から、中小企業を存続させるためのM&Aも活発になっています。
4.中小企業におけるSCMの課題
経営の効率化や全体最適化の観点からSCMは有効な手法でありながら、中小企業では取り組みにさまざまな課題を抱えています。中小企業のSCMに関わる課題について記載します。
1)専門的人材の不足
人的リソースが限られる中小企業では、物流専任の人材も限られます。そのため、日々のオペレーションを優先し、高い視座から物流戦略を検討する時間も限られます。
また、業務が忙しく時間が不足することによって、最新動向の把握や情報入手に時間が割けないこともあります。こうしたことから物流設備やマテハンの更新の際も、多種多様な最新のシステムから自社に適したシステムを選定するのではなく、既存のシステムを単純にリプレースするだけで済ますことが多く見受けられます。
2)課題解決における最適な選択肢
SCMの課題解決のためには過大な投資リスクを回避する必要もあります。課題解決の選択肢も多岐にわたるため、いったいどの方法が最適なのか選択に悩むことも多いと思います。課題解決のキーもDX、自動化、省人化、ロボット、AI、マテハンなど多種多様です。将来的な事業の成長だけでなく、事業環境の変化により事業を縮小する視点からも最適なソリューションを検討し、投資判断をする必要があります。
5.中小企業におけるSCMの課題解決の方法
上述のように人的リソースやコストが限られる中、多種多様なソリューションから最適な選択をすることは中小企業にとっては大きな悩みになります。
また、課題解決を特定の企業だけに頼るのではなく、複数の企業が提供するツールやパーツを組み合わせて課題解決を図ることもできます。さらに将来の事業の見通しを考慮した上で、最適な投資判断も必要となります。
こうしたケースでは豊富な実績や経験、知見があり、現場視点だけでなく、経営の視点も考慮した提案ができるベンダーフリーのコンサルティング会社に相談することをお勧めします。
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