物流の仕事にたずさわる中で、冷たい汗を感じたことはないでしょうか。「在庫がない」そうとわかった時、担当者として血の気が引き、背中が総毛立つような気持ちは二度と経験したくないものです。
一方、在庫不足を恐れるあまり過剰在庫を抱えることは、企業にとってコスト発生要因となります。過剰在庫は倉庫スペースを圧迫し、新たな保管費用を発生させかねません。さらに過剰となった在庫が利用できなかった場合は廃棄コストが発生します。
筆者は長らく飲料メーカーで飲料用原料のSCM(サプライチェーンマネジメント)の職務についていました。お客さまにあたるのは飲料を作る工場です。最終製品であるペットボトルの飲料製造に必要な原液や原料を、過不足なく供給することがミッションでした。
常に「切らさない、余らせない」機会損失とコスト削減のはざまで苦悩していました。どうしたら適正在庫を持てるのか。筆者の経験をもとに適正在庫についてお伝えします。
目次
そもそも在庫とは
そもそも在庫とは何でしょうか。
日本国語大辞典によると、以下のように説明されています。
1. 品物が倉庫などに置いてあること。 また、その品物。
2. 一定時点での生産者、販売業者の材料、仕掛り品、製品、商品の手持ち量。
在庫の定義について会計の側面から深く説明することもできますが、極めてシンプルにすると「お客さまの需要に対して供給できる品物の量」とも言えます。
適正な在庫とは? まずは対象となる在庫の種類と判断基準、評価基準を明確にする必要があります。「在庫はある」しかしそれが出荷できないもの(例えばダメージを受けた保留在庫)であれば、お客さまの需要にはお応えすることができません。
お客さまの発注に応える視点から在庫は大きく分けると 「利用できるもの」と「利用できないもの」に分類できます。例えば「利用できるもの」は、発注に対し出荷できる在庫です。「利用できないもの」は製造中の仕掛在庫、品質検査中の在庫、ダメージを受けた保留在庫、廃棄用の在庫などです。
一方、時間軸の考慮も必要です。在庫は時間の推移とともに形態が変化します。製造中の仕掛在庫→完成品在庫→品質検査中在庫→利用可能在庫となります。利用できる在庫も、賞味期限が近づくと保留在庫に変化します。さらに賞味期限が切れると廃棄待ちとなり、利用できない在庫になります。
適正在庫とは
適正在庫とは何をさすのでしょうか。
適正在庫とは「欠品せず過剰にならない適正な在庫数」です。
在庫が不足した時、欠品が発生し販売の機会損失が発生するかもしれません。一方、過剰の場合は倉庫の保管スペースを圧迫し、新たな保管料も発生しかねません。出荷が低迷あるいは停止してしまった場合は滞留在庫となり、さらに長期にわたる場合は保管費用が発生します。必要でないものが存在することで、それにまつわる管理コストが新たに発生します。これには定量的に可視化できる棚卸資産や倉庫関連費用だけではありません。関わる担当者や対応に必要な時間といった可視化が難しいコストも発生します。
新たなコスト発生を抑え、企業の収益に影響を与えないためにも適正在庫の維持が必要となります。適正在庫を判断するためには、基準となる定量的な評価指標を設定し、定量的な評価が必要となってきます。経験や勘も大切ですが、何に対して過剰なのか、過少なのかを明確にする必要があるのではないでしょうか。
1.適正在庫を維持するための基準があります。常に一定の在庫量を維持する方法
2.需要の変動に合わせた在庫量を準備する方法
上記の基準はオペレーションによって最適な基準を考える必要があります。
例えば、出荷頻度、出荷数量が変わらない品目は、常に一定の在庫量を維持する1.の方法が適しています。一方、需要によって変動する品目は、変動の波に沿うように2. の方法で適正在庫を準備した方が適しています。
また、いずれの方法も安全在庫を持つことで、予期せぬ需要の変動に対応できます。安全在庫とは「欠品の発生を防ぐ最低限の在庫」のことをさします。例えば、一定の在庫量を維持していても、それが出荷できなくなってしまった場合にも、次の発注には対応できる別のロットを最低限は持っておく、というイメージです。
適正在庫も時間軸で変動します。当初、適正量として準備しても、その後、需要が増えれば在庫は不足し、需要が減れば過剰になります。
在庫が減っても次のロットの製造と倉庫への入庫が間に合い、リードタイム内にお客さまに出荷できるのであれば、適正在庫と言えるかもしれません。時間の断面とタイムスパン(時間の範囲)によっても適正在庫か否かの判断は変わる可能性があります。そのため、適正在庫の評価を行う際は、判断タイミングの時間の断面を設定し、ステークホルダーと共有・合意しておく必要があります。さもないと、人によって適正在庫の見解が異なる可能性が出てきます。
適正在庫と在庫指標
在庫指標にはいくつかの種類があります。一般的には在庫回転率(在庫回転日数)が利用されることが多いのですが、筆者が飲料メーカーの職務についていた時、利用していた在庫指標があります。
それは「WOS : Week of Supply」です。「先の何週分の需要をカバーできる在庫を保持するのか」という指標です。
例えばWOS3であれば、先3週分(今週末 (n) の在庫に対し、nの翌週から3週分(n+3)の需要の平均をまかなえる) の在庫を保有します。需要は常に変動していますので、需要に対する出庫、新しいロットの製造と入庫を加味しながら、常に一定のWOSを維持するように、需要の波に沿うように次の入庫量を設定します。
しかし、突然の需要変動も発生します。たとえば需要が急増し1回で2週分の出荷があった場合、一時的にWOS3がWOS1に減少します。その際はWOS3のレベルに回復するよう次の製造と入庫量を増やし、一定のレベルを維持するようにします。
需要が減少した場合、一時的にWOSの値は一時的に上昇します。しかし次回以降の入庫を絞ることで、規定のWOSの値まで下降させるように調整できます。
WOSの優れた点は、変動する需要に添いながら、一定の在庫レベルを維持できることです。
一定以上のWOSを維持していれば、需要の変動を吸収する余地があります。
しかし、このWOSの運用時に注意すべきことがあります。それは全ての入出庫の状況と、在庫の移動の状況を反映させる必要があることです。
例えば、ダメージが発生して在庫の33%が利用できなくなった場合には当該数量を、利用可能在庫から差し引いておく必要があります。さもないと利用できる在庫がないにも関わらず、需要に対して供給できると判断されてしまうからです。また、ダメージの補修が終わった場合はその在庫は利用可能在庫に戻す必要があります。戻さないと、在庫不足と誤って判断し、新たなロットを33%過剰に製造、入庫しかねません。
当然ながら、情物一致(情報と物の状態が一致していること)が必要です。在庫の情報と倉庫の現物の状態を一致させなくてはなりません。
極めてアナログな対応ですが、ダメージ状態は出荷止めの赤札を現物に貼付し、誤出荷がされないようにする。ダメージの補修が完了したら、赤札をはがし、出荷可能な状態に戻す作業が必要です。情物一致が機能していない場合、「あるべきものがない!」と担当者は無用な冷や汗をかくことになるのです。枕を高くして寝るためにも適正在庫の保持は必要です。
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