ECはもはや私たちの生活にとってなくてはならないサービスとして定着しています。今や多くの商品がECで販売・取引されています。
ECに特化した物流サービスも台頭し、日本各地には多くの物流不動産が建設され、FC(フルフィルメントセンター)として活用されています。
一方で物流業界の人材や労働力は、少子高齢化社会の急速な進行によって供給が厳しい状況にあります。こうした中、AIは労働力不足の課題を解決する選択肢の1つとして注目されています。
このコラムではEC物流におけるAIの活用例についてお伝えします。
目次
そもそもEC物流とは
EC(Electronic Commerce:電子商取引)は世界的に有名な大手通販会社であるAmazon(アマゾン)をはじめとして国内では楽天やYahoo!などが代表的なECサイトとして運営されています。EC物流とはこうしたECに付随する物流であり、商品を仕入れてユーザーに届けるまでの一連のプロセスを指します。
一般的にEC事業におけるモノの流れをEC物流と称していますが、その業務内容は多岐にわたります。EC物流はECビジネス全体の構成から情報と金銭の流れにも密接に関係しています。
EC物流の特徴
EC物流はこれまでの物流とは異なる側面があります。EC物流の特徴について、以下に説明します。
1.BtoBとBtoCでは受注1回当たりの出荷数量や配送回数が異なる
ECには法人向けのBtoBと、一般消費者向けのBtoCがありますが、それぞれ物流の性質が異なります。
例えば、BtoBの場合は1配送あたりの商品数は多く、配送先の数や配送頻度が少ないことに対し、BtoCでは、1配送あたりの商品数は少なく、配送先の数や配送頻度は多い傾向にあります。
2.販売経路が複数あるオムニチャネルの存在
オムニチャネルとは、主にBtoCにおいてリアル店舗とネット上のEC店舗など複数の販売チャネルをシームレスに統合する仕組みです。オムニチャネルでは、商品販売時の顧客との接点が、ECや実店舗など複数にまたがります。
例えば、ECで購入し配送で受け取るケースや実店舗で購入し配送で受け取るケース、ECで購入し店舗で受け取るケースなど商品の購入方法と受け取り方法の組合せが複数存在します。店舗で購入しようとしたが、ECのお客様に先に出荷されてしまい、店舗側のお客様にとっては在庫切れとなってしまうケースも起こり得ます。
こうした齟齬や不具合を回避するために、EC物流ではWMSを活用したリアルタイムでの在庫データの更新や拠点を越えたシームレスで精度の高い在庫管理、ロケーション管理やステータス管理が必要となります。
3.季節やイベントによる物流波動がある
ECサイト運営者はさまざまなセールやイベントを行います。
例えばAmazonでは極めて大きなセールを実施します。またクリスマスシーズンには大量の商品がECで流通します。
こうしたイベントでは多種多様の商品が大量かつ同時期に流通するため、物流のオペレーションにも大きな影響を及ぼします。
4.発送や配送においてスピーディーな対応が必要
ECでは受注当日の商品発送などスピーディーな配送が要求されます。また、商品の受け取り方法も多岐にわたり、自宅で手渡しや宅配ボックス、置き配、宅配専用ロッカーへのお届けやコンビニ受け取りなど、お客様のニーズに合わせた対応が要求されます。
5.返品対応がある
ECでは、お客様が購入した商品を気に入らなかった場合の返品対応があります。標準的な売買のプロセスは売り手から買い手にモノが移動し、代金が決済されることで完結するため、返品はイレギュラーな対応となるのが一般的です。
しかしECでは返品が頻繁に発生し、レギュラーの対応と同等の対応が必要なケースがあります。
例えばアパレルのECの場合、購入した商品のサイズが合わなかったり、色味が発注時のイメージと異なる場合に返品が発生します。また、服のサイズが合わないことを見込んで異なるサイズを発注し、サイズが合わない商品を返品するようなケースもあります。
6.専門性が求められる
アパレル業界ではECビジネスを積極的に活用していますが、アパレル特有の商品特性によって高い専門性が要求されます。
アパレル関連の商品には同じデザインでありながら、複数のサイズや異なる色など、多種多様なSKU(最小識別単位)があります。保管方法についても材質によって適切な保管方法が異なるため、細かな商品管理が求められます。
7.梱包や同梱物にオリジナリティを持たせるサービス
BtoCのサービスでは、ECショップオリジナルの梱包資材を利用したり、ギフト用のラッピングサービスをしたりします。また、顧客属性や会員種別、購買履歴などに合わせて、チラシや販促用のグッズを同梱するケースがあります。
そのため、リアル店舗で提供されるサービスと近い個別の接客対応が求められることも少なくありません。
EC物流の課題
EC物流のプロセスはサービス品質とコストダウンを両立させながら、顧客満足度にも直結するため、極めて重要な役割を担います。
先述のEC物流の特徴を俯瞰して考えると以下のような課題をまとめることができます。特にBtoCにおいては、スピーディーなお届けや誤出荷の予防などが、顧客満足度に直結する要素であるため、オペレーション上の課題解決が極めて重要な項目となります。
1.多種多様な商品の受注量や配送量の増加および物流波動にも対応できる、効率的かつ正確でスピーディーな物流オペレーションが要求されること
2.リアルタイムで精度が高いシームレスな在庫管理が要求されること
3.労働力不足や2024年問題により輸送コストが上昇する状況で、コストパフォーマンスを高めること
4.お客様の個別ニーズに対応する際、ヒューマンエラーの削減が必要であること
5.物流品質のサービスレベルが顧客満足度に大きく影響すること
EC物流の課題解決としてのAI
AIは膨大なデータを自ら学習し、精度を向上していきながら判断、実行することが可能です。
そのため、これまで人間が行っていた判断を瞬時に高い精度で自動化できることが特長です。作業員によって異なる品質やアウトプットの品質を高め、ミスを削減しながら効率化できる点に大きなメリットがあります。
EC物流では極めて効率的な物流オペレーションや生産性の向上が要求されます。AIやIoTを活用してWMSなどの既存システムと無人搬送機や自動配送ロボット等を連携させることで、属人的な要素を削減し、業務効率化が期待されます。
省人的で自動化されたシステムの構築を実現するAIの活用例について紹介します。
国土交通省では発荷主や着荷主、輸送事業者が連携してAIやIoTなどのテクノロジーを活用し、伝票やパレットなどの標準化・共通化や、共通システムの構築、サプライチェーン全体の効率化を図る取り組み作りを進めています。
参照:国土交通省『物流DX導入事例集』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001609016.pdf
参照:国土交通省『物流DX』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001379775.pdf
1.倉庫におけるAIの活用例
1)入庫・仕分け工程の活用例
商品の入庫や仕分けの工程では、目視確認やバーコードの読み取り、データの入力やチェックなどの労力に加え、ヒューマンエラーが発生します。
そこでAIのOCR技術を一括読み取りやデータの管理、入庫管理や仕分け工程に活用することで、商品を自動識別し、属人的な作業によって発生するエラーを防ぐ取り組みがなされています。
2)パッキング工程の活用例
パッキング工程で利用される自動封函機のトラブル対策にAIが利用されている事例もあります。
不適切な状態で封函されたまま発送されるトラブルが稀に発生するため、AIを利用した異常検知の仕組みを導入したところ、品質向上を図ることができました。
引用:CAC、自動封函時の異常を検知するAIアプリケーションを三井物産グローバルロジスティクス向けに開発・納入
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000053.000024483.html
2.配送におけるAIの活用
1)配送ルートの効率化例
配送の効率化の一つとして、最適な配送ルートをAIが提案する取り組みが進められています。
AIの機械学習技術を活用し、荷物の配送先の割り当てや配送の順番、輸送経路、配送作業などを考慮し、配送ルートを最適化するシステムです。配送員のGPS情報や実績データを蓄積し分析することで、ルートを最適化します。
2)運行管理面におけるAIの活用
顔認証技術等のAIを搭載した自動点呼ロボットを導入することで、運行管理者の点呼業務の負担を軽減する取り組みもあります。
出退勤・労働時間管理機能のシステムと連携させることでドライバーの労働状況をリアルタイムで把握、残業時間を自動計算することで働き方改革にも貢献しています。
参考:国土交通省 『物流DX導入事例集:AI点呼ロボットの導入で 運行管理者の負荷を低減
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001609016.pdf
EC物流における課題を救うAI活用のまとめ
EC物流はECビジネスの中核を担う要素です。サービスの品質を向上させコストダウンを図りながら、EC物流においてAIを活用することは、様々なEC物流の課題解決の選択肢の1つとなるのではないでしょうか。
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