<MoonShots-6>「本物」の高度物流人材を育てる!

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<MoonShots-6>「本物」の高度物流人材を育てる!

物流業務コンサルティング

<MoonShots-6>「本物」の高度物流人材を育てる!

公開 :2024.11.15 更新 : 2024.11.15

著者:


菊田一郎連載コラム

<物流ムーンショット>
Moonshots on Logistics

あるべき物流へ、勇気あるチャレンジを!

*ムーンショット*

前人未踏で非常に困難だが、達成できれば巨大なインパクトをもたらす壮大な計画や挑戦。
月を目指した、あのアポロ計画のように。

<MoonShots-6>

「本物」の高度物流人材を育てる!

CLOも物流統括管理者も、最重要件は「人格」!!

そもそも「高度物流人材」とは?

「え? 高度物流人材なんて、みんな育成に頑張ってるんじゃないの? <ムーンショット>なんて気張らなくても…」…皆さん、そう思われるかもですが、私が言うのはキクタ流「本物の」高度物流人材。さらにハードルは高く、本当に育成できたら「巨大なインパクトをもたらす壮大な挑戦」になるのではないか? そう考え、<MoonShotsー6>としてみました。ご一読を……。

「高度物流人材」育成に向け提言

 このところ、改正物流効率化法で特定荷主に「物流統括管理者」の設置が義務付けられたこともあり、「高度物流人材」への関心が高まっています。
 この議論は既に2-3年前から、産官学の枠組みで始まっていました。その1つの成果が、国土交通省が昨年3月、「高度物流人材の育成・確保に関するワークショップ」でまとめた提言「物流起点の価値創造を実現する人材の育成に向けて」です。

「付加価値創造の源泉」たる物流には高度人材が必要!

 そもそも今、「高度物流人材」がなぜ、必要なのか?
 提言は、「物流は企業の新たな付加価値創造の源泉となりうる存在であり、人材の育成・確保こそがその鍵を握る」からだ、との基本認識を打ち出します。製造・卸・小売など荷主企業では、「物流は原材料や部品、商品の調達、生産・製造、販売に至るサプライチェーン全体を見渡すことができる立ち位置にある」。また物流業では「物流に関する専門的な知識・ノウハウ・技術・アセットといった自社の経営資源を使って、荷主企業の新たな付加価値創造を提案・主導・支援することができる立場に」ある。
 ゆえに、「高度物流人材の育成・確保は、中長期的視点から企業経営における先行投資」になるのだと、その育成を強く奨める内容になっています。

「高度物流人材」の要件とは

 では、「高度物流人材」に求められる要件とは何か? 提言では「今後求められる高度物流人材像」として、下図の3点を挙げています。


①デジタル化に対応し、データドリブンで思考する能力
  ……デジタル化・データサイエンスに関する知識や、これを物流分野に適用する能力

②サプライチェーンを全体最適化の視点からマネジメントする能力
  ……物流に加え関連する業界全体を俯瞰的に把握し、
    物流と製造、販売等のサプライチェーンの各段階を理解し、全体をマネジメントする能力

③社会変化に対応し、新技術導入や異分野連携を推進できる能力
  ……様々な社会の変化を把握し、物流にまつわる現状分析や課題設定を的確に行い、企画・立案に適切に生かす能力

*出典/国交省、「物流起点の価値創造を実現する人材の育成に向けて」

 なるほど、いいですねえ。とても幅広に論じています。
 おっと、だけれど? よ~く見ると、「②サプライチェーンを全体最適化の視点からマネジメントする能力」って……これ、物流ではなく、ロジスティクス/サプライチェーンの責任者に求められる能力ですよね? 幅広すぎる……。

「物流」と「ロジスティクス」はレイヤーが異なる概念

 国家規格であるJIS(日本産業規格)によると、「物流とは、物資を供給者から需要者へ、時間的と空間的に移動する過程の活動。一般的には、包装、輸送、保管、荷役、流通加工とそれらに関連する情報の諸機能を総合的に管理する活動。…」と定義されています。
 同じくロジスティクスのJIS定義は、「物流の諸機能を高度化し、調達、生産、販売、回収などの分野を統合して、需要と供給の適正化をはかるとともに、顧客満足を向上させ、あわせて環境保全及び安全対策をはじめ社会的課題への対応をめざす戦略的な経営管理」。
 物流は、一連の「モノ運び」関連実務をフィジカルに実行する「オペレーション」「活動」です。この「物流」を高度化し、物流の前後工程と統合して、需給適正化・顧客満足・社会的課題に対応させる「経営戦略策定と管理」が、ロジスティクスの使命。
 本来はレイヤーが異なる概念ですが、両者が区別されていない。この理解が今まさに議論が続いている「物流統括管理者」と「CLO(最高ロジスティクス責任者)」の混同問題にそのままつながっているのだと、今さらながらよく分かりました。現実には共通部分もあり、本コラムタイトルのように、根付いた「物流」の一言にロジ概念を含ませることはありますが、明確さが必要な約務定義でこれはマズい。もし本件にご関心あらば、以下のコラム↓を参照下さい。

https://www.okabe-ms.co.jp/support/knowledge/logistics-column04

「本物」の高度物流人材とは

座学と実務だけで?

 そんなわけで、上の提言を「物流・ロジスティクスの高度人材」と読み替えて、以下論じます。
 上記①②③はどれも、これからの物流・ロジスティクスリーダーにはぜひとも身に着けてほしい能力。そして既にこれらの人材育成に向けた教育カリキュラムはあちこちで策定され、実施されている模様なので、私もその点は安心しています。
 しかし、これらの能力を座学や実務の中で育成するだけで、日本産業界の物流・ロジスティクスを自ら力強くけん引し、新たな次元に導いてくれるリーダー人材が誕生するのだろうか? 私には疑問があります。まだ足りない大切な要件が、あるのではないか?と。

未曽有の人手不足時代のリーダー

 これから約四半世紀、わが国産業界は未曽有の人手不足時代に突入します。それは確定的な人口動態予測から明らかで、2024年問題で言われるドライバーだけでなく、物流現場作業を担う非正規従業員も、さらに正社員まで含め、各社ともすでに厳しいリクルート環境に陥りつつあるのではと思います。 これがさらに20年前後、続くのです。
 必要人員を確保できなければ、事業規模を維持できない。今や、中長期的な事業の持続可能性を担保するための「人材の確保と定着」が、企業の超重要経営課題に躍り出たのです。
 とりわけ物流・ロジスティクスのリーダーは、多数の現場作業者や班長から中間管理職まで、幅広い階層の部下たちを束ねる存在。これらの貴重な戦力=人材が嬉々として、誇りをもって働ける職場環境を創り上げ、維持する使命があります。高度物流人材であれば、さらにそれら各部門のリーダー=大将をまとめ上げる、総大将を務めることになるかも知れない。

高度人材に必要なのは「慕われ・頼られる人間性、人格」

ならば働く人たちを心から大切にし、目的達成への情熱で皆を引き付ける求心力、人間力が不可欠です。思ったことを発言し・行動できるチームの心理的安全性を高め、「この職場・会社で働き続けたい!」とメンバーが思ってくれるエンゲージメントを確保する――それによって定着率向上・離職率低減を図らねばなりません。人は上司の人格を――言っていることではなく、やっていることで――その本心・人間性を直感してしまうもの。求職と求人の需給が完全に逆転した今、嫌になったら気軽に転職されてしまいます。でも人手不足だから、辞められたら困るから、人を大事にする――そんな浅ましい意識では、たちまち足下を見透かされることでしょう。
 だからこそ、これからの高度人材は知識や技能を鍛えるだけでは足りない。その要件の一番の奥底を突き詰めるなら――働く人たちに心から慕われ・頼られる「人間性」「人格」を陶冶することだ!――私はそう思い至ったのでした。

賢人たちの声に学び、我がものに

 私たちは「人格を錬磨し、知識・技能と情熱・人間力を兼備した本物の高度物流人材」を必要としています。従来の人材育成カリキュラムにないのなら、新たな育成策が必要になる。ここではその第一歩として、高度人材に備えてほしい要件を書き出してみました。


*企業人として、地球と人の環境保全に向けた社会課題の解決を自社の使命とする自覚と決意
*働く人を心から大切にし、苦しみには同苦し、楽を与える問題解決へと行動する力
*立場や個性を越え、人は本源的に平等だとの確信を保持
*自身と内外の仲間の成長・和合が繁栄の必須要件だとする信念
*使命感と責任感、聞く力/共感力/調整力/指導力/変革への勇気
*オープンマインドで公平・公正な倫理観・道徳観
*率直だが柔軟性と確信力を備えた豊かな人柄   ……etc.

 そんな人格の涵養に、社内外で対人的・組織的実務経験を(修羅場を含め)積むことは不可欠です。けれども現場・現実に対処するだけでは、地上を駆け回るにとどまる。その現状を突き抜けてムーンショットを狙うためには、空高く飛翔しなければなりません。初めから全てを兼ね備えたスーパーマンなどいない。でも理想のあるべき姿に向け、たゆまぬ努力を続けられる人こそが、「本物」になる……。
 誰にもできる錬磨の手段が1つ、あります。それは、古今東西の賢人たちの声に耳を傾け、学ぶこと。思索し、格闘し、咀嚼し、我がものにすること。私自身、指導している会社の若手メンバーに求められ、「読書会」で意見交換しようと、課題図書を挙げて取り組み始めたところです。
 良書の選択がカギになりますが、私はとりあえず30冊くらいのリストを作りました。地球社会と歴史に広く目を開き、極端を排してバランスよく、信念のもと勇気ある行動で道を拓いた先人たちに謙虚に学ぶ姿勢。それさえあれば、おのずと「本物の高度物流人材」への道は、拓けるのではないかと私は思っています。

<参考文献>菊田、「物流危機回避への高度人材育成、本質要件は『人格の陶冶』に」、第41回日本物流学会全国大会研究報告集(2024年9月)、https://www.logistics-society.jp/presentation-paper2024-9.html 

(おしまい)

鈴与シンワートでは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を生かし、物流の課題を解決する最適なソリューションを提案します。
お客様の課題に合わせ、デジタルツインなど最新のテクノロジーと知見を活用した物流ITコンサルティングの提案も可能です。是非お気軽にお問い合わせください。
https://www2.shinwart.co.jp/l/907272/2021-11-28/39gg2

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著者:菊田 一郎

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト 株式会社大田花き 社外取締役、ハコベル株式会社 顧問 1982年 名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し、月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。内外1000件余の物流現場・企業取材の知見を活かし、物流やサプライチェーン・ロジスティクス分野のDX/GX/SDGs/ESG等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等に従事。 2017年6月より㈱大田花き 社外取締役、2020年6月より2023年5月まで㈱日本海事新聞社 顧問、2020年後期より流通経済大学非常勤講師、2021年1月よりハコベル㈱顧問。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)などがある。

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