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菊田一郎連載コラム
<物流ムーンショット>
Moonshots on Logistics
あるべき物流へ、勇気あるチャレンジを!
*ムーンショット*
前人未踏で非常に困難だが、達成できれば巨大なインパクトをもたらす壮大な計画や挑戦。
月を目指した、あのアポロ計画のように。
<MoonShots-8>
「物流センターを自律化」!
その要件とサプライチェーン最適化・エネルギー自律化
目次
自律型全自動化物流センター(AADC)への道
本コラム第1回で筆者は、<物流ムーンショット-1>として「物流センターの自動化!」を掲げました(https://logistics.shinwart.co.jp/column/logistic_it_consultation/kikuta01/)。そこでは<物流センターDXへの“自動化レベル 1 to 5”>を示したうえで、究極のありたい姿として、「自律型全自動化物流センター」“Autonomous/Automated Distribution Center(AADC)”のイメージを提示しました。「自律化」と「自動化」の2つを、達成へのマスト要件と位置付けています。
今回はそのうち「物流センターの自律化」についてもう一歩深掘り、想像力の翼を広げたいと思います。他方の、荷役・運搬など物理的作業の「自動化」は、マテハン機器やロボティクス、これらを制御するIT・AIの急速な発達によって、間もなく手の届きそうな範囲まで私たちは迫っている(予算さえあれば…)。でも「自律化」の方は真剣に考えるほど難易度が高く、今のうちにイメージを膨らませて思考実験を重ね、あるべき姿を「ムーンショット」として共有しておいた方がいいな、と気付いたからです。
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<MoonShots-1> 物流センターの自動化! |
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以下に、<物流センター自律化への3つの要件>をまとめてみます。
自律化の要件①構内運営の自律化
いきなり「全自動化」「完全無人化」ができるわけではなく、またそれにこだわる必要もないと私は思います。現在、文字通り日進月歩の爆速でAIが進化を続けていますが、頭脳と手足、そしてなにより「心」を備えた、人にしかできない仕事がゼロ化する日は来ない。
AADCでも、「1部門に数人の管理監督者、補助作業/メンテ担当者」が着任していることでしょう。この陣容だけで、日々の入出荷・入出庫、ピッキング・仕分け・梱包・流通加工など各部門の業務がほぼ自動的に実行され、AIセンター長の状況モニタリング・意志決定による自律的最適稼働がなされています。
その監督・調整を担う「物流センター管理チーム」は、今のパイロットやキャビンアテンダントみたいな「憧れの、カッコいい仕事」になっているはずです(ぜひ、実現しましょう!)。
![物流センター自律化](https://logistics.shinwart.co.jp/wp-content/uploads/2025/01/%E5%80%89%E5%BA%AB%E5%86%85%E9%83%A8%EF%BC%94.jpg)
これらの構内業務が遅滞なく、ボトルネック形成を回避して日々、順調に遂行されるための必要条件は? 大局的には当センター設備の処理能力・容量と、インプット/アウトプット、つまり入荷と出荷の量・仕事の質のバランスが時間的・空間的に確保できていることですよね。
人力頼りの従来型センターなら数値条件以外に、「働く人のモチベーションとエンゲージメントの確保・維持」という人間的な配慮(気持ちの問題)がものすごく重要になるので、今日も四苦八苦しているセンター長さんが多いことでしょう。AADCでも数人ずつの管理チームの結束・士気の維持は不可欠ですが、数百人の現場作業者の人たちを束ねるのに比べれば難易度は低いので、ここでは捨象しておきます。
AADCでは、AIが当日の入出荷予定に応じた最適な作業計画を自律的に立案し、自動化機器に指令。管理者が最低限のチェックを行いながら最適運用に努めます。ところが厳しい問題がまだ、あるんです。「入出荷の量・質のバランスを時間的・空間的に確保すること」は、当センターが自律しようにも、能動的に選択できない要件に依存しているからです。当然ながら、入荷量を決めるのは通常、本社の調達部門かサプライチェーンの上流側であり、出荷量を決めるのは下流の流通側ですね。ここで「自律化の要件」は第2レベルに駒が進みます。
自律化の要件②上流・下流との物流/情報連携
今回の改正物流効率化法で、「トラック1運行当たりの荷待ち・荷役時間は2時間以内に」というルールが義務化されることになりました (発着で合わせて2時間以内なので、当センターでの荷受けor荷出し時間は「原則、1時間以内」が目標になります……ご存じでしたか?)。
参考:国土交通省「改正物流効率化法を踏まえた取組状況について」https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001841643.pdf
荷待ち・荷役が長時間化する主な要因は、人を人とも思わぬパレットなし手作業の原始的ブラック物流慣行や、拠点の処理能力が追い付かないことでしょうか。処理能力を上回る荷量が勝手に届くので、とても捌けず、数十台のトラックが公道に列をなし、近隣住民から大ひんしゅくが……なんて事態に陥り、困り抜いた卸のセンター長さんに私は直接、話を聞きました。
逆に下流の顧客には、今日受注した商品を明日までに届けなければならず、通常稼働ではとても追いつかないので毎日、深夜まで残業して疲弊する……という悲しい事態も日常茶飯事だったようです。
こんな物流暗黒時代はもう、AADCでは卒業です! センターの処理能力・在庫状況はAADCが能動的に発信し、社内各部門はもちろんサプライチェーン全体でリアルタイム共有されています。納品予定情報と到着予定時間、発注情報は早期に(リードタイム延長で最も遅くて前々日に)届くので、事前に作業計画を立て配車手配もできる。予定入荷量または出荷量を合計してみたら、処理能力を超えちゃっていた……なんて場合も安心。AADCはそんな場合、上流側・下流側いずれにも、調整の依頼をかけて増減できる契約にしてあるからです。一企業の都合をゴリ押しすることはサプライチェーンの全体最適を損ない、結局自社にも悪影響を及ぼすのだから、忌避すべし、という社会的なコンセンサスが成立しているわけですね。
この近未来世界では、高精度AI需要予測とこれに基づく小売側の発注情報が上流側にも各権限内で共有され、小売から卸・製造・サプライヤまでのサプライチェーン全体にわたる情報連携によって、「ムダな=売れないモノは作らない・運ばない」世界に近づいているはずです。
つまり私たちが目指す「物流センターの自律化」は、センターだけでいくら頑張っても実現できない。けれど、政府が2040年までに現実化を目指すフィジカルインターネットの時代には、AADCが登場し、製・配・販の荷主と物流の各層が公平なパートナーとして、モノと情報の流れを連携・共有することで、各拠点が自律的・能動的に駆動しながら、全体最適化を追求できる――私はそう展望していて、詳しくは<ムーンショット-10>で解説する予定にしています。
自律化の要件③使用エネルギーの自律化
もう1つ、これからの時代に欠かせない自律化要件が、エネルギーを可能な限り外部供給に依存しない「使用エネルギーの自律化/自前化」です。筆者は年来、「日本のすべての倉庫にソーラーパネルを!」と訴えてきました。この2年、史上最も暑い夏が続いたように、温室効果ガス(GHG)排出拡大を主原因とする気候破壊は年々深刻化している。なのに、各国の排出削減努力は停滞し、このままでは世界中で合意した「1.5℃目標」の達成は絶望的とも言われます。人類の穏やかな生活と産業を守るため、地球の「沸騰化」を何としても食い止めねばなりません。
ところが2025年開けの本稿執筆時点で、わが政府の発表した新しいGHG削減目標(案)が、心ある人々の義憤を買っています。知られる通り、政府が掲げていた従来目標は「2050年カーボンニュートラル/2030年に2013年度比でGHG排出量を46%削減」でした。一方、23年4月に日本が議長国として発出したG7エネルギー・環境担当相会合の共同声明は「2035年に2019年度比でGHG排出量を60%削減」と、IPCCの提案に準じたより高い目標を示しました。日本の基準年に換算すると「2035年に13年比で66%削減」となります。議長国が発した声明は「国際公約」になる、というのが通常の理解だそうです。
それが24年12月27日に政府の地球温暖化対策推進本部が発表した削減目標案では、「2035年度に13年度比で60%削減」となっていたのです。6%も足りない! 各界から目標の上積みを求める声が噴出しているのも当然で、第7次エネルギー基本計画の決定までにぜひ再考してほしいものです。
参考:首相官邸 地球温暖化対策推進本部「地球温暖化対策計画(案)」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/dai52/siryou1-2.pdf
![物流センターでの使用電力を再生可能エネルギー由来電力に転換](https://logistics.shinwart.co.jp/wp-content/uploads/2025/01/kikuta08-2.jpg)
政府に異を唱えるだけでなく、私たち自身で物流活動からのGHG排出を進んで減らし、範を示そうではありませんか!
EV化推進による直接排出量(Scope1)の削減とともに、調達電力等経由の間接排出量(Scope2)削減のため、物流センターでの使用電力を再生可能エネルギー由来電力に転換/広い物流センターの屋根にソーラーパネルを設置し、自家グリーン発電で賄ってScope2排出量をゼロにしよう!――というのが私の提案です。
大量の電力を消費する冷凍倉庫だとソーラーパネルで賄えるのは2割程度の模様ですが、それでも大幅にGHGを減らせる。数年内にペロブスカイト電池や高能力大容量バッテリーなどの新技術が実用化されれば、EVの電源を含め、通常倉庫での「エネルギー自律化」は一層容易になるはずです。
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以上の手段で「物流センター自律化」を目指す大目的は、「働く人と地球の環境保全」であることを、最後に強調しておきます。物流を誇らしくやりがいのある仕事に進化させ、穏やかに生活できる地球環境を死守することこそ、私自身の誓願でもあります。AADC化を念頭に、「物流センター自律化」をもう1つのムーンショットとして、この新しい年、できることからチャレンジを開始しようではありませんか!
(おしまい)
鈴与シンワートでは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を生かし、物流の課題を解決する最適なソリューションを提案します。
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