<MoonShots-2> 完全脱炭素・ゼロエミ物流!

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<MoonShots-2> 完全脱炭素・ゼロエミ物流!

物流ITコンサルティング

<MoonShots-2> 完全脱炭素・ゼロエミ物流!

公開 :2024.07.18 更新 : 2024.10.10

著者:


菊田一郎連載コラム

<物流ムーンショット>
Moonshots on Logistics

あるべき物流へ、勇気あるチャレンジを!

*ムーンショット*

前人未踏で非常に困難だが、達成できれば巨大なインパクトをもたらす壮大な計画や挑戦。
月を目指した、あのアポロ計画のように。

<MoonShots-2>

完全脱炭素・ゼロエミ物流!

究極の物流GXへの道と、残る課題

なぜ脱炭素化が必要か

 「物流と産業社会を持続可能にするために、働く人と地球の環境保全を!」と訴える筆者は年来、「物流での脱炭素化を進めよう!!」と主張し、様々な方策を提案してきました。そもそも、なぜ脱炭素化≒ゼロエミッション化がマストなのかというと?――今回は詳しく論じる紙幅がありませんが、モチベーションが必要なので結論だけ書いておきます。


①年々過激化・沸騰化している地球温暖化(去年は観測史上最も暑い1年に、この夏もはや酷暑日続き、もっと暑くなる?)の主要因は、温室効果ガス(GHG)による保温効果である。なかでも寿命が圧倒的に長く、量も多い「炭素」が、その主犯である。

②今のままGHGを排出し続けると、気候変動が不可逆的に進行し、近未来の人類が穏やかに暮らせる地球環境が破壊されてしまう。だから何としても、止めないといけない!

③そのため国際社会は、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)等の科学的エビデンスと勧告に基づき、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)を毎年開催し、GHG削減目標を定め進捗を計ってきた。昨年のCOP28では、2100年に産業革命期以来の地球の平均気温上昇を 「1.5度以下にする」目標を達成するため、2030年までに2019年比で43%、2035年までに同60%を排出削減する必要性のあることが確認された。

……というわけなのですが、日本国内の反応はイマイチで、筆者はヤキモキしながら物流関連分野の皆さんに向け、声を張り上げています。だって、孫に顔向けできないじゃないですか。四半世紀後くらい?の我が死の床で、孫に、「おじいちゃんたちがさ、ガスの排出を止めてくれなかったから、地球は、こんなにムチャクチャになっちゃったんだよね…」なんて絶対に言わせたくない! そんな個人的思いが社会的パーパスに一致して、ジブンゴトになっているものです。

そもそも脱炭素社会は実現可能なのか

 まずわが足元の物流分野において脱炭素化を進めようと、私は「100%再生可能エネルギーで駆動する、ゼロエミ物流への転換」を主張してきました。これを今、<物流ムーンショット-2>に堂々、掲げたいと思います。その具体策は、というとコラム2回分くらいかかってしまうので、私が書いた「物流GX7つの具体策」[文末の(参考文献)]を参照してください。

 「んなこと、できるわけないっしょ」の声もあることは承知で、「いや、できないこともない」「できる」の根拠として、私は世界的な環境保護団体であるWWF(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)ジャパンによる委託研究、「脱炭素社会に向けた2050 年ゼロシナリオ」https://www.wwf.or.jp/activities/data/20210909climate01.pdf)をいつも紹介しています。

脱炭素社会に向けた2050 年ゼロシナリオ

 本シナリオでは綿密なシミュレーション結果から、本気の脱炭素施策を進めることで、日本全体として「2030年に再生可能エネルギー由来電力比率を47.6%に」「2050年に同比率100%」を達成することは「可能だ」としています。国の公約した「2050年カーボンニュートラル」ではありません。「カーボンゼロ」なんです。現行の政府「第6次エネルギー基本計画」では2030年の再エネ電力比率目標を「36-38%」としているのですが、「それではとても間に合わない」と危機感をもつ私には、「そう、これだよ!」と思える提案なのでした。

 結論として「2050年ゼロシナリオ」は、国内のエネルギー需要を100%、太陽光・風力・地熱・バイオマス等の再生可能エネルギーで賄うことは、「やる」と決めればできる、と示してくれています。石油化学製品など原材料としての化石資源の使用は一部残るとしても、発電を含む駆動源・熱源にするエネルギーとしては、化石資源を一切使用しない「化石エネルギーゼロ社会」「自然エネルギー100%社会」へと、日本が生まれ変わることは可能だと。
産業社会全体を包括した話なので物流も当然含まれ、「2050年・自然エネルギー100%物流/全面脱炭素化」をムーンショットに掲げて実行を決意することは、全体の約2割分(運輸+倉庫で日本のCO2排出量の約2割を排出している)を我々物流セクターで責任もって担う宣言になるかと思います。

3つの反対意見に立ち向かう

 しかし。「よしっ、頑張ろう!」だけでは済まない話・課題もいろいろあるんです。ここでは代表的な反対意見「①国土の狭い日本にはこれ以上、太陽光、風力発電設備を設ける余地が(少)ない」「②再エネ電力は高い」「③再エネ電力は安定せず、余ったら使い切れない」を取り挙げ、反撃しておきたいと思います。

①国土の狭い日本にはこれ以上、太陽光、風力発電設備を設ける余地が(少)ない?

 まず風力発電の適地が少ないとの指摘については、広い陸地スペースを必要とする陸上風力発電でなく、「洋上風力発電」が登場したことで早々に粉砕されました。国も「洋上風力発電量を2030年までに1000万kWh、40年までに3000万~4500万kWh(大型火力・原発45基分)とする導入目標」を掲げています。ただ、ご存じの通りその立地選定・地元折衝から完成までには10年近い歳月が必要なのが課題で、この計画でも「(2050年ゼロシナリオ実現に必要な)2030年・再エネ発電比率約48%」を強く後押しするには間に合わない。

 もう6年しかない短期決戦には、やはり短期開発が可能な太陽光発電を主役にするしかありません。その設置場所が国内にもうない、って? ……とんでもない!

 ここで応援演説にご登場いただくのが、日本でトップクラスの再エネ電力供給比率(いま最大で8割、数年後には100%を目指す)を誇る新電力会社、グリーンピープルズパワー(GPP)の竹村英明社長です。先日筆者は竹村社長(下の写真左)に本テーマでリモートインタビューし、しつこく質問しては応答する対談をしまして、その動画が同社サイトの「たけちゃんネル」にちょうどアップされたところです(https://youtu.be/LpEzKJDEeiU)。以下にその要点を紹介したいと思います。

GPP「たけちゃんネル」画面より

GPP「たけちゃんネル」画面より
©Green People’s Power

まず竹村さんは、「今も全国で拡がり続けている荒廃農地に太陽光発電施設を設置するだけで、日本の電力需要の1割程度は賄える計算になるんです」と指摘します。「さらに444万haの農地全部でソーラーシェアリングをしたとすると、容量は18.5億kWで国内最大電力の10倍以上、生み出す電力は2.2兆kWhで国内電力需要の2倍以上になります」

*ソーラーシェアリングとは、農業用地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、農業を営みながら太陽光発電を行うシステム。
 農作物と太陽光パネルで太陽光を「シェア」するが、光飽和点が低めの作物なら十分育つ。

 日本の農地全体でソーラーシェアリングというのはムリとしても、候補地は山とある。荒廃が社会問題化している放棄農地への設置なら、地域振興とあわせ一挙両得ではないでしょうか。

 農地だけじゃありません。筆者は常々、「日本中の倉庫にソーラーパネルを!」「自律型ゼロエネルギー倉庫だらけにしよう!」と唱えています。設置可能だがまだソーラーパネルを導入していない大型建築物の屋根+家屋の屋根の面積がどれほどになるのか、データは手元にありませんが、これも相当の量になることは間違いない。投資余力があれば自家導入でよいし、投資ゼロでも屋根を無料で貸与すれば、そこにPPA(Power Purchase Agreement)事業者がソーラーパネルを設置してくれ、20年などの長期契約で割安な電力が購入可能になる「PPA方式」も実績が拡大中です。近未来には、薄く柔軟なペロブスカイト太陽電池を建物壁面に貼り付けるだけで、さらに容易にソーラー発電ができるようになるでしょう。既に大型高層ビルで導入計画があり、実証実験を始めた物流企業もあります。

 以上より、「再エネ発電施設を設置する土地・スペースは、国内にまだたっぷりある」と反論①を一刀両断にしておきます。

②再エネ電力は高い?

 ……とんでもない、それは昔の話です。「今や再エネ由来電力が一番安いですよ。当社の場合、太陽光発電のコストが1kWhあたり10円弱のものもあり、最安と言い切っていいです」と竹村社長は断言します。私が3年前から引用している環境省の資料でも、2030年には太陽光・風力が火力・原子力のコストより安く・あるいは拮抗するとの予測を出していました(下図参照)。いま既に事実として、この予測以上に再エネ電力コストは下がっているのです。逆に火力発電のコストは、ロシアのウクライナ侵略以来の化石資源価格高騰で図のレベルから大きく跳ね上がり、今なお高止まりしているのはご存じの通りです。

<経産省による2030年の電源別発電コスト試算>

経産省による2030年の電源別発電コスト試算

*経済産業省 総合資源エネルギー調査会 発電コスト検証ワーキンググループ(第8回会合)資料「発電コスト検証に関する取りまとめ(案)」より(2021/8/3)

 「発電コストは、発電所の設置費用と運転維持費や燃料費など維持費用、社会的費用などを合算して、その耐用年数の間に作る電気の量で割ったものです。太陽光発電は資本費が大部分ですから、維持費等を含めても発電コストは現実に9円/kWh程度になっています。一方で原子力や石炭、LNGなどの化石燃料では資本費はコストのうちわずかで、ほとんどが維持費用ですし、原子力の中には放射性廃棄物のコストが完全には含まれていません。理由は『計算できない』からです」と竹村社長は続けます。

 このようにコスト算定には、再エネ電力が高く、原子力等が安くなる工夫があちこちに施されているらしい。竹村さんは「(本州の需要地と北海道・東北・九州をつなぎ需給を平準化する)系統送電線の増強費用は数兆円と見積もられ、どの発電方法でも使うものですが、全額が再エネ電力のコストだけに転嫁されています。実は安い再エネ電力を高く見せて拡大を阻むことで、産業界全体が損失を被っているんです」と憤っていました。

それでも、既に、「再エネ電力は、一番安い!」。これも一刀両断です。

③再エネ電力は安定せず、余ったら使い切れない

 これは今現在の冷厳な事実として、否定できない部分があります。安定しないのは、気候頼りの太陽光・風力発電の宿命。けれどこの重い宿命を転換する有力かつ実践的な方法が複数、登場しています。1つはもちろん「貯める」技術。多くの蓄電池は資源価格高騰もあってまだ十分廉価になっていませんが、技術進化で打開の可能性が見えてきました。たとえば国内で大きく注目されているPower X社は、安全で2.7MWhの大容量を誇る高性能大型定置用蓄電池PowerX Mega Powerを供給開始。ソーラーパネルを設置した物流センターにも導入され、昼間の余剰電力を貯め、夜間などに利用して安定化を実現しています。

<安価な昼間の余剰再エネ電力を使おう!>
 ところで今GPP社では、再エネ電力比率が高いだけに、昼間のソーラー余剰電力の扱いに困っています。国が電力の定額買取りで普及を後押ししてきたFITの期間が終わった、卒FIT電力の供給が増えているのが一因です。「再エネの余剰電力を電力市場に売る昼間の市場価格は、最安の九州や中国エリアではわずか0.01円になるときもしばしば。その他地域でも5円ぐらいとなり、大きな差損が発生しています。これをなくすには、昼間のユーザーを拡大するしかないんですが……」と竹村さん。

 同社では昼間の電力価格が安くなる「ひるトク」メニューを用意しています。ならばソーラーパネルは導入できなくても、昼間稼働中心の倉庫なら、GPPの「ひるトク」電力購入契約を結ぶだけで、超お手軽に環境価値のあるゼロエミ電力を使えますよね。それによってScope2のGHG排出量を激減させられる! これはむっちゃ魅力的な選択肢ではないでしょうか? 

 最近は翌々日配送が着荷主に認められ、物流センターで強いられてきた深夜作業を昼間にシフトできる事例が増えているので、とても時宜にかなったアイデアに思えます。なお現在同社のサービス提供エリアは関東、中部、東北で、中国四国地区も展開を計画中とのこと。GPPのサイト(https://www.greenpeople.co.jp/)でサービスを確かめてみてください。

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 もう1つ。筆者には余剰再エネ電力活用の卓抜なアイデアがあります。

 現在、北海道、九州地区等で使い切れず、しかし系統送電線がないために需要地に送ることもできない再エネ余剰電力は、どうなっているかご存じですか? 「出力制御」の名の下に毎年、大量の余剰電力が事実上、「廃棄」されているのです。その量を竹村社長に聞くと、「去年は19.2億kWもの出力抑制がかかりました。今年の予測は25億kWで、そのうち10億kWは原発が4機も動いている九州です」……こんなもったいない話が、あるでしょうかっ?!! 

 そこで私がイチ押ししているアイデアが、「再エネ余剰電力でグリーン水素を生産し、FCEV(水素燃料電池車)のゼロエミエネルギーとして活用する」ことなんです。FCEVは水滴しか排出しないゼロエミ車両で、静音で振動も少ないので物流にも最適。「高くて買えないよ」とお思いかも知れませんが、FC大型トラック開発実証に取り組む複数の友人に聞くと、「次の次の世代、2030年前後には普通に検討できる価格帯にできそうだ」とのこと。またグリーン水素発生装置の製品開発も進展中です。

 残る課題が、グリーン水素の安定的サプライチェーンの確立だったんです。
そこで!捨てられてきた余剰電力でグリーン水素を作って貯めれば、一気に問題解決。FCEV普及展開のビジネスモデルを確立させられるのでは? そうなれば日本勢が遅れを取っていたゼロエミ車両分野で一躍、世界市場を獲りに行けるかも……なんて野望さえ、脳裏を駆け巡ります。

実走行するFCトラック

実走行するFCトラック
(アサヒビール平和島DCにて、筆者撮影)

 竹村社長も「昼間の余剰再エネ電力でグリーン水素を作って販売できれば、環境価値がムダにならず、再エネ電力事業の継続も容易になる。素晴らしい考えですね!」と絶賛していました。

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 さていかがでしょう? Scope1(直接排出)はBEV/FCEV化で、Scope2(間接排出)は再エネ電力転換100%で、物流での炭素排出を完全にストップする……やろうと思えば、できそうなのです。こうして「100%再エネ駆動のゼロエミ物流実現」という、究極の物流GX(グリーントランスフォーメーション)を成功させる――物流ムーンショット-2の達成チャレンジに、あなたもひとつ、相乗りしませんか?

(第2回おわり)

(参考文献)
・菊田、Japan Innovation Reviewコラム「物流ミライ妄想館」第4回、「ZEV、モーダルシフト、PPAで実現 物流脱炭素化/GXの7つの具体策とは?」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/79956

鈴与シンワートでは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を生かし、物流の課題を解決する最適なソリューションを提案します。
お客様の課題に合わせ、デジタルツインなど最新のテクノロジーと知見を活用した物流ITコンサルティングの提案も可能です。是非お気軽にお問い合わせください。
https://www2.shinwart.co.jp/l/907272/2021-11-28/39gg2

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著者:菊田 一郎

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト 株式会社大田花き 社外取締役、ハコベル株式会社 顧問 1982年 名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し、月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。内外1000件余の物流現場・企業取材の知見を活かし、物流やサプライチェーン・ロジスティクス分野のDX/GX/SDGs/ESG等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等に従事。 2017年6月より㈱大田花き 社外取締役、2020年6月より2023年5月まで㈱日本海事新聞社 顧問、2020年後期より流通経済大学非常勤講師、2021年1月よりハコベル㈱顧問。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)などがある。

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