菊田一郎連載コラム
<物流ムーンショット>
Moonshots on Logistics
あるべき物流へ、勇気あるチャレンジを!
*ムーンショット*
前人未踏で非常に困難だが、達成できれば巨大なインパクトをもたらす壮大な計画や挑戦。
月を目指した、あのアポロ計画のように。
<MoonShots-1>
物流センターの自動化!
物流の持続可能化へ、物流現場作業が自動化できればなあ…
◆……と、物流に携わるあなたなら、一度は思ったことがあるのでは?
いま日本の生産年齢人口は、「毎年65万人前後」も縮小を続けています。現場作業を担うパートさんアルバイトさんを募集しても、十分集まらない――もうそんな日常に直面し、危機感満載の現場もあるかも知れません。「このままじゃ、ウチの物流は持続可能じゃない! 何とかしなきゃ!! 」と。
政府の人口動態予測によると、2040年代半ばくらいまでは生産年齢人口の減少スピードが速く、そうとうヤバい人手不足時代が20年近く続くことが、ほぼ確定しているのをご存じでしょうか? (注*その後は総人口の減少スピードが上回り、総需要=物流需要自体がもっと縮小するので人手不足は徐々に緩和されそう)
なので現場の非正規従業員に限った話ではなく、オフィスの正規社員も含め、これから全産業界で人材は争奪戦になるでしょう。もう売り手市場化が進んでいますが、賃金・待遇向上と労働環境整備が業界をまたいだ熾烈な競争になるわけです。とすれば、「人海戦術ベースの、昭和の3K倉庫」が低賃金のままで人員を確保し・定着させ、事業を継続できる確率は極めて低くなります。待遇に加え、より少ない人数でパフォーマンスを維持できる生産性向上策で、省人化・脱3Kを図ることはもう、マストと言えます。
◆物流拠点・構内現場の一般的な作業フローは、
①トラックからの荷下ろし~検品・入荷
②入庫=棚入れ・保管
③パレット・ケース・ピースのピッキング
④荷合わせ・仕分け
⑤梱包
⑥方面別仕分け
⑦パレタイズ
⑧検品・出荷~トラックへの積み込み
――といった流れになるでしょうか。その大半が人手頼りであったら、自動化したいプロセスだらけでしょう。
下図は私がそんな物流センター/倉庫の作業自動化レベルを5段階に区切り、それぞれの姿をイメージしてみたものです。
<物流センターDXへの“自動化レベル 1 to 5”>
(制作協力)YEデジタル社
<Level.1>
危惧されるのは、「昭和のままのアナログ物流現場」がまだ残っていると推測されること。さすがにフォークリフト、台車と保管ラックくらいはあるでしょうが、何をどの棚に入庫したのか、ベテランが休んだらもう分からず、出庫もできない……といった悲しい現場は(絶滅危惧種とは思うけれど)、いい加減卒業しないといけません。
<Level.2>
バーコード管理、WMS(倉庫管理システム)導入は効率化・自動化のファーストステップですが、記載の調査によるとWMS導入済み倉庫はまだ半分程度らしい、「日本の半数の倉庫はWMSを導入しておらず、デジタル化されていない」という現実は、なかなか重いことです。
<Level.3>
駆動コンベヤ、自動仕分け機、ピッキング支援システムなど、できる部分から自動化を進め出した段階。多くの現場はこのレベルで「もう少し何とかしなきゃ~」と焦っているところかも知れません。最近は各種物流ロボットのサブスク利用とか従量課金とかの提案が出てきて、導入ハードルが下がったので、検討中の企業も多いと思います。
<Level.4>
より思い切った投資決断で、各種自動倉庫、AGV(ガイド式無人搬送車)、AMR(自律走行搬送ロボット)、ピッキングロボット、自動梱包機etc.など、多数のマテハン設備を大規模に導入し連動させている本格的な自動化追求現場。それでも、自動化コストが高すぎる作業や自動化工程のつなぎ部分等には、人手作業がまだまだ多く残っています。
<Level.5>
それらの人手作業も自動化して全部つないでしまい、入荷・入庫から出庫・出荷までの一連の流れ作業について、モノのハンドリング作業をすべて自動化。受発注情報との連携など情報システムも連動することで、人の介在を基本、必要とせず、無人稼働を可能にする理想の自動化センター。
この約10年の驚くべきイノベーションで、かつては夢としか思えなかった作業自動化アイテムもかなり出そろい、予算さえあれば「全自動化センター」も技術的には実現可能な時代になってきました。しかし現時点ではまだ投資回収が容易でなく、一般化にはもう一段のイノベーションないし革新的ビジネスモデルの登場が不可欠です。当面は「全自動化」「無人化」にはこだわらずとも、補助作業や管理・監視・判断などでは人が協働する、「ほぼ自動化センター」を目指すことでもよいかと思います。だから(全)とカッコに入れておきました。
◆ただ、その将来について、私はこう展望しているのです。
一連のフィジカルなハンドリング作業がより廉価に全自動化でき、サイバー面では状況変化の監視や、売行き変化に即応した在庫補充指示を含む最適化コントロールの判断・指示も、人に代わってデジタルツイン技術とAIで自律的にこなせるようになった、その暁には……
「自律型全自動化物流センター」
“Autonomous/Automated Distribution Center(AADC)”
が登場するのではないか。いや、あるべき姿として掲げ、目指すべきではないのか、と私は提案しています。このAADC(私の造語ですが)こそが、本コラムの掲げる「物流センターのムーンショット」なのです。
◆1つのビルくらいの「巨大な箱」を想像してください。
①そこにトラックが相次いで到着すると、積載貨物は自動で引き込まれて入荷、検品も自動で完了するので、
ドライバーは短時間で発車できる(このトラックも将来は無人運転車になっているかも知れない)
②巨大な箱=AADC内部で自動化システムが稼働し入庫・保管
③出荷指示に応じて製品を自動ピッキング・荷揃え・梱包・パレタイズして出庫
④到着したトラックに自動積み込みをして出荷、トラックは即発車……
<全自動化クロスドックセンターのイメージ図>
(出典)Next Logistics Japan資料より
上図はNext Logistics Japan社が作成した、高速道路直結の自動化クロスドックセンターのイメージ図。同社はアサヒHDG、日清食品、トヨタ、日野自動車など多数の複数荷主・メーカーと複数物流事業者が参画し、ダブル連結トラックによる幹線共同物流を軸に、共同物流プラットフォームの確立に挑んでいます。私の描く構想に近い雰囲気なので、許可を得て引用しておきます。
このAADCの運用に人が介在するのは、管理担当チームが日に一度くらいやってきて、現場・現物の点検と必要な補修・調整、清掃を行うことくらい(まあマンション管理人のような常駐者を置いた方が安心かも?)。通常は監視カメラとIoT機器によるリモートコントロール、リモートメンテナンスで運用管理に対応できるかと思います。
おっと! 大事なことを抜かしてました。AADCはもちろん、再生可能エネルギーで自立・自律して稼働し、GHGを排出いたしません。数年・10年スパンで太陽光・風力発電+バッテリーの技術開発が進展し、この夢を現実化してくれるものと、私はほぼ確信しています。
* * * * * * *
◆AADC構想、いかがでしょうか? 今の時点では正直、「夢物語」レベルかも知れません。
でも……第35代米国大統領ケネディが「(9年以内に)アメリカは人間を月に送り、無事帰還させる」とアポロ計画を発動した1961年、アメリカはまだ、地球の大気圏外に15分滞在するくらいの簡易宇宙飛行にしか成功していませんでした。月に行くなんて、多くの人は「夢物語」だと思ったことでしょう。でもこれが、「本家本元のムーンショット」なのです。
「ムーンショットを実現してみせる!」と決意したであろうスタッフたちは、そのためには何を、いつまでに、どこまでやらねばならないか、バックキャストで計画を策定し、実行。1969年7月、2人の宇宙飛行士がアポロ11号で月面に着陸し、生還したのでした。
私は密かに期待しています。<全自動化物流センター=AADC>という「物流ムーンショット-1」を、「実現させてやる!」と誰かが決意し、仲間を集め、結論から逆算するバックキャストで計画を立て、今からなすべきステップをロードマップにし、着実に実行してくれることを……。
(第1回おわり)
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