「物流の2024年問題」が巷間の大きな話題になりました。これほど物流業界が人々の注目を浴びたのは、今までなかったのではないでしょうか。
トラックドライバーをはじめとする物流の担い手の減少は進み、少子高齢化の加速によって労働力不足が依然として続いています。経済活動のインフラである物流を維持することは、我々の生活にとって不可欠です。
こうした中、官民で推進している取り組みが「フィジカルインターネット」です。
本コラムでは、物流の未来を変えるといわれるフィジカルインターネットの定義や、未来への取り組みについてお伝えします。
目次
1.フィジカルインターネットとは?
フィジカルインターネット(Physical Internet)とは、”インターネット”と呼称されるものの、情報通信のインターネットとは様相を異にします。(Physical Internet)フィジカルインターネットとは、情報通信のインターネットにおける通信方法の考え方をフィジカル、つまり物理的な、物流の世界に展開して貨物や荷物の輸送や保管を行う概念です。
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フィジカルインターネット! |
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情報通信におけるインターネットの世界では、パケット交換と呼ばれる通信方式が利用され、送受信されるデータはパケットと呼ばれる小さな単位に分割されて送受信が行われます。尚、パケットの語源は「小包」に由来します。パケットに分割されたデータは、パケットに含まれた宛先情報(IPアドレス)をもとに、目的地のコンピューター宛に送信されます。目的地の受信側では、ルーターという機械が自分宛のパケットを受け取り、分割されたデータを復元します。
2.フィジカルインターネットの定義
フィジカルインターネットでは、先述のようなインターネットのパケット交換の仕組みを適用して、貨物や荷物の輸送や保管を行います。国土交通省では、フィジカルインターネットを次のように説明しています。
フィジカルインターネット(次世代の物流システム) フィジカルインターネットは、占有回線でなく共通の回線を用いてパケット単位で通信を効率的に実現しているインターネット通信の考え方を物流(フィジカル)に適用した新しい物流の仕組みとして、2010年頃にヨーロッパで提唱されたもの。以降、国際的に研究が進められている。 デジタル技術を駆使し、物資や倉庫、車両の空き情報等を見える化し、規格化された容器に詰められた貨物を、複数企業の物流リソース(倉庫、トラック等)をシェアしたネットワークで輸送する共同輸配送システム。(※1) |
(※1)引用:国土交通省『フィジカルインターネットの実現に向けた取り組みについて』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001628774.pdf

画像出典:国土交通省『フィジカルインターネットの実現に向けた取り組みについて』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001628774.pdf
フィジカルインターネットをさらに深掘りしていくと、その起源はヨーロッパに行き着きます。経済産業省の資料では、参考として、フィジカルインターネットの定義を以下のように説明しています。
【参考:フィジカルインターネットの定義】 1.モントルイユ、バロー、メラー (出典:Ballot, E., Montreuil, B., Meller, R. D., The Physical Internet (荒木勉 訳) フィジカルインターネット 企業間の壁崩す物流革命) フィジカルインターネットは、相互に結びついた物流ネットワークを基盤とするグローバルなロジスティクスシステムである。その目指すところは効率性と持続可能性の向上であり、プロトコルの共有、モジュラー式コンテナ、スマートインターフェースの標準化を図る。 2.ALICE(欧州物流革新協力連盟) (出典:SENSE project Deliverable D2.3. Roadmap to the Physical Internet より経産省作成) フィジカルインターネットの概念は、貨物輸送およびロジスティクスサービスの完全な相互接続性(情報・物理・財務のフロー)を実現することを目的としており、これらのサービスを、相互接続されたサブネットロジスティクスネットワークの一部としてシームレスに使用できるようにする。 ロジスティクスネットワークのシームレスな物理的、デジタル的、およびプロセス的接続には、コンテナ・スワップボディ・パレット・ボックスなどのユニットロードの輸送、保管、ハンドリングと、エンドツーエンドのサプライチェーンにおける決まり事の正しい実行を保証するための関連プロセスが含まれる。(※2) |
(※2)引用:経済産業省『論点:フィジカルインターネットとは、何か(本会議の議論の射程)』
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/physical_internet/pdf/001_05_00.pdf
フィジカルインターネットには先述の定義で触れられていたように、プロトコルの共有、モジュラー式コンテナ、スマートインターフェースの標準化、エンドツーエンドのサプライチェーンにおける決まり事を正しく実行するため、「標準化」「共通」といった趣旨のキーワードが含まれています。この点は、情報通信のインターネットの概念にも通じる部分でもあります。
これまで、日本の物流は企業ごとのビジネスモデルに最適化されてきました。各企業が個別最適に独自の進化を続けてきた背景があり、多くのメーカーでも物流子会社を所有していました。一方で物流を取り巻く環境は変化し、トラックドライバーをはじめとする物流手段の供給側のリソースは減少しています。そのため、競合メーカー同士の共同配送や物流ネットワークの共有化が進み、「競争は商品で、物流は共同で」という理念が浸透しています。
フィジカルインターネットは、この「共同」の考え方をさらに進化させたものと、理解することもできます。
3.フィジカルインターネットのエッセンスは企業や業種分野を越えたネットワーク
国土交通省では、フィジカルインターネットについて、
デジタル技術を駆使し、物資や倉庫、車両の空き情報等を見える化し、規格化された容器に詰められた貨物を、複数企業の物流リソース(倉庫、トラック等)をシェアしたネットワークで輸送する共同輸配送システム」(※3) |
「デジタル技術を駆使し、物資や倉庫、車両の空き情報等を見える化し、規格化された容器に詰められた貨物を、複数企業の物流リソース(倉庫、トラック等)をシェアしたネットワークで輸送する共同輸配送システム」(※3)と説明しています。
(※3)引用:国土交通省『フィジカルインターネットの実現に向けた取り組みについて』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001628774.pdf
これまでの共同配送といった手段の共有化から、さらに踏み込んで、荷姿である容器も規格化し、さらには物流オペレーションの標準化や、物流拠点の共同利用など、異なる企業や業種分野を越えた共同配送ネットワークこそフィジカルインターネットのポイントでもあります。

図の出展:国土交通省『フィジカルインターネットの実現に向けた取り組みについて』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001628774.pdf
従来は、各企業で個別最適だった物流が、産業や業種、企業の垣根を越えて全体最適になり始めています。これがまさにフィジカルインターネットが目指す姿であり、人口減少と担い手不足に直面する中で物流を維持していくための取り組みでもあるのではないでしょうか。
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