<MoonShots-9>「本物」の物流DX!

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<MoonShots-9>「本物」の物流DX!

物流ITコンサルティング

<MoonShots-9>「本物」の物流DX!

公開 :2025.02.17 更新 : 2025.02.13

著者:


菊田一郎連載コラム

<物流ムーンショット>
Moonshots on Logistics

あるべき物流へ、勇気あるチャレンジを!

*ムーンショット*

前人未踏で非常に困難だが、達成できれば巨大なインパクトをもたらす壮大な計画や挑戦。
月を目指した、あのアポロ計画のように。

<MoonShots-9>

「本物」の物流DX!

バズワーディングに惑わされず本気チャレンジを

基本の「き」①…DXの「X」とは、何だっけ?

 皆さんは「DX」が「Digital Transformation」の略語であることを、当然ご存じでありましょう。まず、「Digital」を頭文字「D」の1文字で略するのは、ごくフツーのことですね。

 では、「Transformation」という14文字が、何でアタマの「T」でなく、突然、「X」1文字に略されてしまっているのか。ご存じの方、ありますか?

 ……私はこの3年くらい、全国各地での講演で聴講者の皆さんに聞いてきましたが、手を挙げて答えてくれる方はありませんでした(遠慮して手を挙げなかっただけ?かもね)。

 それは……“X” という文字の形、図象から来ているのです。この文字は2本の線分が交差=クロスしてできているから、「クロス」とも読みますね。その線分の片方、どちらでもいいですが、たとえば「/」。これを「限界線」に見立てます。此岸(しがん)から彼岸(ひがん)への「境界線」とすれば、縁起でもないが「三途の川」と見てもいい。

 で……もう一本の「\」が、右下方の此岸から、ゆっくりと、左上方に立ち昇ってくるところを想像してください。先端が間もなく、この「限界線」に突き当たる。けれど、線分は果敢にもこの境界を踏み越え、さらによじ昇って、最後に「クロス」の姿を成就する。

 こうして限界を打ち破ったものは、生まれ変わり、もはや従来の形をしてはいない。新たな姿へと「形を・変える=トランス・フォーム」しているのだ……。だから「X」が「トランスフォーメーション」と理解されるようになった、らしいです。

 英字は基本、表音文字なのに、この場合は日本語みたいに直感的な象形文字・表意文字的に理解されているわけですね。形にフォーカスすると、芋虫がさなぎに、そして美しい蝶へと変態を遂げるような「メタモルフォーゼ」を伴うとも言えます。それは「まるごと、姿かたちが変わる」こと。だからこの視点でDXを端的に訳すと、「デジタルの力で、従来の限界を突き抜け、自分の姿かたちをまるごと、変えること」になります。典型例としては、ただのレンタルビデオ屋だったのが、ストリーミング技術でビジネスを完全にデジタル転換し、今では独自作品も量産するデジタルコンテンツプラットフォームへと姿を変えた「Netflix」を思い浮かべてください。ビジネスモデルを根本的に転換し、顧客体験を劇的に向上し、競争力を高めましたよね。

基本の「き」②…DXの公的な定義は?

 DXの定義・公式見解について筆者はこれまで、経済産業省の「DXレポート2」(複数バージョンあり)から引用し紹介してきましたが、それ以前の原典がありました。元ネタは、同じく経済産業省が2020年11月9日に策定(2024年9月19日に3.0に改訂)した「デジタルガバナンス・コード~DX経営による企業価値向上に向けて~」でした。冒頭部の注記1にこうあり、そのままDXレポートに引き継がれています。


DXの定義は次のとおりとする。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」


引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード~DX経営による企業価値向上に向けて~」
https://www.meti.go.jp/press/2024/09/20240919001/20240919001-1.pdf

 分かりにくい文章ですが、私が採っている解釈の重要ポイントは、以下です。

◆DXの起点は、「顧客や社会のニーズ」である。
◆DXの手段は、「データとデジタル技術を活用すること」である。
◆DXの目的は、「(1)ビジネス環境の激しい変化に対応すること、(2)製品やサービス、ビジネスモデルを変革すること、(3)業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革すること、(4)競争上の優位性を確立すること。」

 さらに「DXレポート2」では、「企業がDXの具体的なアクションを設計できるように」と、DXを①デジタイゼーション、②デジタライゼーション、③DXの3階層に分け示しています。


「デジタライゼーション」は紙伝票を電子化するなど、「社内業務単体」のデジタルデータ化。これなしにはDXの「デ」の字も始まらない。現場実行(オペレーション)レベルの短期的・必達プロセスとなります。

「デジタライゼーション」は、一連の「社内業務プロセス」を通したデジタル化であり、物流分野では入荷から出荷までのプロセスをカバーするWMS(倉庫管理システム)が典型例。部門レベルの戦術(タクティクス)的・短中期的取り組みとなります。

「DX/デジタルトランスフォーメーション」は以上と違い、「組織横断/組織全体の業務・製造プロセス」を対象としたデジタル化。全社的な戦略(ストラテジー)的・長期的取り組みです。

その目的も社内の業務改革だけでなく、アウトプットにフォーカスするのがポイント。“顧客起点の価値創出”という大目的を達成するため、「事業やビジネスモデルの変革」に挑みます。

……以上の私の解釈をDXレポート2の図に重ねて示したのが、図表1です。

図表1 DXの3層構造とキクタ解釈(経済産業省「DXレポート2」の図を元に筆者加筆)

参考:経済産業省「DXレポート2」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/dgs5/pdf/005_s03_00.pdf

あるべき物流DXの姿は?

 以上より、単発業務のデジタルデータ化(デジタイゼーション)、あるいはWMSでプロセス管理をデジタル化(デジタライゼーション)しただけだと、「ウチはDXしました!」とは言えないと、私は考えます。DXの本質は、局所的なデジタル化ではなく、「総体的・全社的変革」にあります。そのデジタル製品やシステムを導入するだけで、「DXできまっせ!」とか適当なことを言って売りまくるベンダーやそのユーザーが増え、「なんちゃってDX」が跋扈した結果として、DXがバズワード化してしまったことを私は強く憂えています。

 DXは本来、「会社orサービスを革命的に進化させる『コト』」です。製品などの『モノ』ではないんです。長期的経営戦略の策定と実行であり、①経営トップが決意・コミットし、②IT部門の協力の下、③現業部門リーダーが推進――このトライアングル態勢でなければ進みません。

 そして「本物の物流DX」の目的は――先に掲げた(1)~(4)の内輪の社内目的は当然として、それらを通じ、起点として示した「顧客や社会のニーズ」に成果が還流するのでなければ、社会的意義がない。顧客・社会のニーズとは、究極的には「人の労働・生活環境と地球環境の保全・持続可能化」だ――そう考える私は、こんな風にまとめています。


<本物の物流DXの目的は?>

①UX=顧客体験の価値を高め、
  *UX:User Experience (物流サービスを通じた利便性・ときめき・驚き・感動)

②EX=従業員体験の質を高め、
  *EX:Employee Experience(3K重労働脱却、物流を人の尊厳とやりがいある仕事に)  

③企業競争力を高めること
  *業績拡大で会社・事業を持続可能に
 ……加えて、以上の達成を通じて最終的に

④「人の労働・生活環境と地球環境の持続可能化」(SDGsの達成)に貢献すること
  *物流と穏やかな経済・人類社会を持続可能にすること
    ◆DXは以上の目的を達成するための、「手段の1つ」。「DXのためのDX」は手段の目的化で本末転倒。
    ◆デジタルで事業/サービスを変革するDXは「コト」。ICTのソフト・ハード、設備などの「モノ」ではない。


 この大目的観・使命感を見失っているとしたら、そのDXチャレンジは間違いなく、迷走します。「何のため?」を常に問い返しつつ、諦めずに前進することです。

「DXあるある」迷言集!……「間違いだらけのDX」

最後に私のDX講演「間違いだらけのDX」ネタの十八番(おはこ)、『社長のDX「あるある」迷言集』を特別にご披露して話を結びましょう。社長に限らず各層のリーダーにも通じることなので、肝に銘じてもらえると嬉しいです。


<要チェック! 社長の「DXあるある」迷言集>

①「…わが社もDXを導入するぞ!/DXを活用するぞ!」?
②「ウチにもDX、入れてくれ!/DX買って来い!)」??   

  👉「機械/システム」のように「DX」を買ってきて取り付けられる「モノ」と勘違い……(涙
③「わが社も『DX化』を進めてます!」 ???
  👉ホントに多い間違い。「デジタル化/自動化」とかと混同。「大変革化」「革命化」なんて言えないでしょ!?

 ……これが私の言う、「間違いだらけのDX」です。3年前から講演や原稿で訴えているんですが、多勢に無勢、世のDXカン違いはなくなりませんねえ……。せめて、本コラム読者の皆さんには正しいDX理解で、「本物の物流DX」をムーンショットに位置付けてもらえればと願うばかりです。もし普通の運送業・倉庫業であられるなら、「オープンなデジタル/フィジカル物流プラットフォーム」を目指すくらいの、意欲的チャレンジを開始されてはいかがでしょうか。

(おしまい)

鈴与シンワートでは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を生かし、物流の課題を解決する最適なソリューションを提案します。
お客様の課題に合わせ、デジタルツインなど最新のテクノロジーと知見を活用した物流ITコンサルティングの提案も可能です。是非お気軽にお問い合わせください。
https://www2.shinwart.co.jp/l/907272/2021-11-28/39gg2

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著者:菊田 一郎

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト 株式会社大田花き 社外取締役、ハコベル株式会社 顧問 1982年 名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し、月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。内外1000件余の物流現場・企業取材の知見を活かし、物流やサプライチェーン・ロジスティクス分野のDX/GX/SDGs/ESG等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等に従事。 2017年6月より㈱大田花き 社外取締役、2020年6月より2023年5月まで㈱日本海事新聞社 顧問、2020年後期より流通経済大学非常勤講師、2021年1月よりハコベル㈱顧問。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)などがある。

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