2022年11月に公開されたChatGPTは、公開後わずか2カ月で全世界のユーザー数が1億人に達しました。今、全世界がAIに注目し、AIの浸透が急速に進行しています。一方、日本においては少子高齢化が急速に進行し、労働力不足やDX推進の遅れなどさまざまな課題が顕在化しています。物流業界においては、2024年問題のトラックドライバー不足により、経済活動のインフラである物流分野の維持継続に黄色信号が灯っています。こうした状況下、急速に進化しているAIは、物流業界のリソース不足解消や、物流業務の効率化、生産性の向上を図る切り札として注目されています。このコラムでは物流業界におけるAIの活用について説明します。
目次
AIとは何か?
そもそもAIとは何でしょうか。AIとはArtificial Intelligenceを略した言葉で、人工知能を意味します。AIの歴史は古く、その概念は1950年代から存在していました。AIという言葉を最初に使用したのは米国の計算機科学者、ジョン・マッカーシー教授でした。
1950年代から始まったAIの研究は、「探索と推論」を中心とした第1次AIブーム、1980年代の「知識表現」を中心とした第2次AIブーム、そして2000年代に入り「機械学習」を中心とした第3次AIブームが起こりました。第3次AIブームでは、コンピュータが大量のデータからパターンなどを発見し、自動的に学習する「機械学習」が登場しました。さらに複雑な判断が可能となる「深層学習(ディープラーニング)」も実用化されました。
現在、最新テクノロジーとして注目を集めているのがジェネレーティブAIと言われる生成系AIです。生成系AIには人間と対話しながら情報の収集や文章の作成を行うChatGPTや、テキストから画像データを生成するMidjourney(ミッドジャーニー)などがあります。
ChatGPTはLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)の仕組みを用いており、自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)によって大量のデータを深層学習することで、人間が書いたような文章の作成が可能となっています。
いまやAIは日常生活の多くの領域に組み込まれ、日常生活の利便性を向上させています。
膨大なデータをリアルタイムに処理でき、分析や予測能力に優れているAIの進化は、定型業務(ルーチン作業)を自動化してきました。AIはさらに進化し、定型業務だけではなく、非定型業務や知的業務、煩雑な事務作業なども将来的にはAIで代替できると言われています。
AIの市場動向
Fortune社によると、世界の人工知能の市場規模は2023年の5,153億1千万米ドルから 2030年までに2兆 251億2千万米ドルに成長すると予測されています※1。また、経済産業省の報告書※2によるとIoT・AIの活用が普及することによる実質GDPの押し上げ効果は、2030年で132兆円と推定されています。
AIの市場規模が広がり世界的にAIが活用される中、我が国の物流分野においてもAIの活用が普及しています。物流の領域では高度に進化した自動倉庫やロボットなどが導入されています。一方で、属人化によってDX化が進まない業務もまだまだ存在しています。中でも物流の2024年問題は、喫緊の課題です。政府でも物流分野の課題に対して様々な取り組みが行われています。2023年6月に内閣官房から公開された「物流革新に向けた政策パッケージ」のポイント(案)※3では物流DXの推進がうたわれ、港湾AIターミナルの利用を促進しています。
※1参照:FORTUNE BUSINESS INSIGHT テクノロジー/人口知能市場
※2 参照:経済産業省 令和2年度産業経済研究委託事業 新たなガバナンスモデルの在り方に関する調査 調査報告書
※3参照:内閣官房 「物流革新に向けた政策パッケージ」のポイント(案)
物流分野でのAI活用事例
人手不足をはじめとする様々な課題を抱える物流分野で、AIはどのように活用されているのでしょうか。以下、物流分野におけるAIの活用事例を紹介します。
1. AIによる輸配送ルートの最適化
AIは道路や経路情報、渋滞情報、気象情報、受注情報などを組み合わせて、最適な輸配送ルートやスケジュールの設計をすることに役立っています。AIは大量のデータをリアルタイムで解析し、輸配送時間の短縮やコストの削減、貨物の追跡、CO2の削減を実現しています。
2. 需要予測の最適化と在庫の最適化
サプライチェーンの上流工程である需要予測の精度は、下流工程のオペレーションに極めて大きな影響をあたえます。AIの活用は、需要予測の精度を向上させることで、調達・供給のプロセスを最適化したり、在庫の適正化や作業スタッフなどのリソース配置を最適化したりすることに貢献しています。季節性や市場変化による需要変動に応じて在庫を調整し、適切な供給を行い、原料や商品の廃棄を削減することもできます。また人手不足の状況下、物流センター内の最適な人員配置にも有効に機能しています。
3. AIを搭載したロボットやマテハン機器など
AIを搭載したロボットやマテハン、自動化機器は物流センター内の入出庫作業、在庫管理、ピッキング、パッキング、仕分け作業などに導入され、倉庫内作業の自動化と生産性の向上に貢献しています。AIを活用することによって、荷役作業の時間短縮や作業者の負担軽減、ヒューマンエラーの削減などを実現しています。また高速かつ高精度な物流オペレーションの実現により、EC市場におけるCX(Customer Experience:顧客体験)の向上にも貢献しています。
4. AIを実装したドローンによる輸配送
ドローンは次世代の新たな輸配送手段として注目されています。ドローンは山間部や過疎地域など、輸配送インフラが整っていない場所でも短時間に荷物を輸配送できるメリットがあります。現在、輸配送の人手不足解消手段として、実証実験が行われています。例えば、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構では「自律運航AI」を搭載したドローンで、宅配便の配送拠点から地域の公民館へ荷物を配送する実証実験をしています。また、離島間の輸配送や医薬品の輸配送などでもドローンを活用した実証実験が行われています。
まとめ
AIの活用による物流課題の解決事例は今後、ますます増えていきます。物流業界におけるAI活用は、業務の効率化や生産性の向上、顧客満足度の向上に大きく貢献します。将来的にはドローンによる輸配送や、トラックの自動運転など新たな技術も実現します。物流業界におけるAIの活用は、課題解決のための重要な要素であり、将来の持続可能なサプライチェーンに必須の技術です。
鈴与シンワートでは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発実績」を生かし、物流の課題に対する最適なソリューションを提案します。
鈴与シンワートが物流の課題解決の支援をした日比谷花壇様の導入事例は以下のURLからご覧いただけます。https://logistics.shinwart.co.jp/case/itconsul/hibiyakadan/