昨今、物流拠点を1カ所から2カ所以上に増やすこと、すなわち、”物流の複数拠点化”が積極的に検討されるケースが増えています。
リスクマネジメントの観点から、複数の物流拠点が必要であると考える事業者が多くなっているためです。
このコラムでは、
「物流の複数拠点化とはなにか」
「2024年問題にはどのような影響とリスクがあるのか」
「なぜ2024年問題への対策として複数拠点化が検討されるのか」など、物流の複数拠点化について、事例とともに解説していきます。
特に、新たに物流拠点を増やす検討されている企業、現在1カ所の物流拠点で業務を行っている企業は、是非このコラムを参考にしてください。
目次
1.物流の複数拠点化とは
物流の複数拠点化とは、倉庫や配送センターといった物流拠点を1カ所から2カ所以上に増やすことです。
一般的には、物流拠点を増やすと保管料、人件費、拠点管理費などが追加となり、事業者の物流コストの負担が増加します。
そのため、業務効率やコストの観点からは、物流拠点は1カ所、若しくは、なるべく最小限に止めるケースがほとんどです。
ただ最近では、物流コストは増えますが、リスクマネジメントの観点から、複数拠点化が積極的に検討されるケースが増えています。
事業拡大などの投資のみを目的とせず、物流の2024年問題に関するリスクを回避する目的としても、2カ所以上の物流拠点が必要であると考える事業者が多くなっているようです。
2.物流の2024年問題とは
物流の2024年問題について簡単にご説明します。
2.1. 2024年問題の概要
物流の2024年問題とは、2024年4月から適用となる働き方改革関連法への対応によって、様々な影響が及ぶとされる問題の総称です。
2024年4月1日以降、トラックドライバー1人あたりの時間外労働の上限が年間960時間に規制されます。
これには、トラックドライバーの労働環境を改善する狙いがあります。
長時間労働が慢性化している運送会社や物流会社はドライバーの労働時間を削減しなければなりません。
ただ、トラックドライバーの立場からすると、労働時間が削減されると収入の減少につながるため、この法律によってむしろ、トラックドライバーの不足がさらに顕在化するのではないかと懸念されています。
2.2. 事業者への影響とリスク
2024年問題は、運送業界・物流業界のみが抱えるものだけではなく、世間に幅広く影響が及ぶと懸念されており、製造会社(メーカー)、貿易会社など、多くの事業者とっても、運営上の重大なリスクの1つとなっています。
運送会社や物流会社は、2024年4月の適用までには、この法律に対応しなければならないため、すでに準備段階に入っています。
従いまして、2024年を待たずに、この問題の影響は既に少しずつ出始めているのが現実です。
事業者へ影響のあるリスクは、以下の通りです。
①運賃の大幅な値上げ要請
⇨運送会社から大幅な値上げを要請される可能性があります。
⇨これを拒否した場合、運送会社から取引を打切られるリスクがあります。
②配送リードタイムの延長要請
⇨ドライバー不足により輸送量が減少するため、運送会社から配送リードタイムの延長を要請される可能性があります。
つまり、現状よりも顧客への配送が遅くなるリスクがあります。
⇨延長の要請を拒否すると、運送会社から取引を打切られるリスクがあります。
③取引の規模縮小や内容変更の要請
⇨トラックドライバーの不足により、運送会社が今の取引を維持できなくなる可能性があります。
例えば、長距離輸送案件の拒否や、輸送距離の短縮化要請などが考えられます。
⇨運賃の値上げ如何に関わらず、運送会社から取引を打切られるリスクがあります。
2.3. 2024年問題への対策
2024年問題の影響の有無や程度は、事業者によって様々でしょう。
そのため、事業者が取るべき最善の対策も、それぞれ異なってきます。
例えば、自らがドライバーとして顧客へ商品を配送している事業者であれば、2024年問題の影響をそれほど受けないかもしれません。
この場合、対策は不要です。
一方で、運送会社に業務を委託して、日本全国へ商品を配送している事業者であれば、
2024年問題の影響を強く受ける可能性があります。
この場合、何らかの対策を検討する必要があります。
事業者自身にとってどのようなものがリスクとなるのか、それに対してどのような対策を取るべきか、十分に検討を行うことが必要です。
3.対策としての複数拠点化
2024年問題への対策として、複数拠点化が有効となることがあります。
複数拠点化は、どのようなケースにおいても有効であるとは限りません。
事業内容などによっては、複数拠点化をしない方が良いことも十分にあり得ます。
また、複数拠点化を進める場合であっても、いくつ拠点を構えるのか、どこに拠点を構えるのかなどによって、そのメリットとデメリットの大きさと内容が大幅に変わります。
他の対策案と合わせて十分に検討を行いましょう。
次の章では、実際に複数拠点化を行った、国内のとあるメーカーの事例をご紹介します。
4.複数拠点化の事例
国内のとあるメーカーA社は、2024年問題に関するリスクを回避するために、実際に複数拠点化(1カ所から2カ所へ増開設)を行いました。
成功例として、是非ご参考にしてください。
4.1. 背景
国内のとあるメーカーA社は、長年、埼玉県内の1カ所に物流拠点を構えて、自社商品を日本全国の顧客へ配送していました。
過去には全国の4カ所(札幌、埼玉、大阪、福岡)にも物流拠点を構えていたことがありましたが、物流コストの削減と業務効率の向上を計り、埼玉の1カ所のみを拠点として残し、その他の拠点は閉鎖しました。
物流業務は、埼玉の拠点に集約した後も滞りなく順調に進み、倉庫保管や配送を含めて、なんら問題なく運営をしていました。
4.2. 2024年問題の顕在化
2021年某日、A社が配送業務を委託していた国内大手配送会社より、トラックドライバーを中心とした人手不足の深刻化を理由として、A社宛に「近々全国的に配送リードタイムを延ばさざるを得ない旨」の通達がありました。
例えば、A社が物流拠点を構える埼玉から大阪への配送であれば、もともと発送翌日には到着していたところ、発送翌々日に到着することとなり、配送リードタイムが1日延びるといった内容でした。
A社は関西以西にも多くの顧客を抱えており、全国的に配送リードタイムが延びることは、顧客満足度の低下に繋がりかねないため、大変懸念しました。
4.3. 解決策
そこでA社は、埼玉に加えて新たに大阪にも物流拠点を構え、複数拠点化の検討を開始しました。
埼玉と大阪の2つの物流拠点には、それぞれ分散して商品を保管し、東日本エリアへは埼玉の物流拠点から、西日本エリアへは大阪の物流拠点から発送することを想定しました。
地理的観点から日本全国へ配送しやすい埼玉と大阪の2カ所に物流拠点を構えることにより、配送リードタイムの現状維持、若しくは、短縮化が狙いです。
例えば、埼玉から福岡への配送であれば、もともと発送翌々日に到着していましたが、複数拠点化後であれば、大阪から福岡への配送することになるため、発送翌日には到着し、従来の配送リードタイムを短縮することが可能になります。
A社内での検討結果、全体の物流コストは従来よりも増加する試算となったものの、配送リードタイムの短縮による効果を重要視し、物流拠点を2カ所に増やすことを決定しました。
4.4. 結果
想定通り、配送リードタイムの現状維持、若しくは、短縮化を達成できました。
これにより、顧客満足度の向上に繋がりました。
全体の物流コストは増加したものの概ね試算通りであったため、A社は複数拠点化に成功したといえます。
4.5. その他のポイント
A社のケースでは、複数拠点化が結果として、災害や感染症への対策としても有効となりました。
通常時、東日本エリアへは埼玉の物流拠点から、西日本エリアへは大阪の物流拠点から商品を発送する体制ですが、非常時には相互に拠点機能を補完することができるためです。
例えば、大雨、大雪、地震、拠点内での感染クラスターの発生など、何らかの事情により1ヵ所の拠点が正常に稼働せず、発送できなくなった場合でも、他拠点から日本全国へ商品を発送し、非常時の事業影響を最小限に抑えることができました。
複数拠点化は、日本全国へ1カ所の拠点から商品を発送していたA社にとって、非常に有益な解決策でした。
5.まとめ
今回は、物流の複数拠点化について、事例とともに解説しました。
個別事情を勘案する必要はありますが、A社の事例のように、複数拠点化が2024年問題だけではなく、事業継続の対策として非常に有益であるケースもあります。
2024年問題の影響は既に出始めていますので、早目のリスク対策の検討を強くおすすめします。