第29回 物流領域のフィジカルAIとその技術

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第29回 物流領域のフィジカルAIとその技術

物流ITコンサルティング

第29回 物流領域のフィジカルAIとその技術

公開 :2026.03.30 更新 : 2026.03.30

著者:

鈴与シンワート|物流コンサルティングサービス紹介|サービスページ遷移バナー

加速度的な進化を続ける生成AIに続き、フィジカルAIの社会実装が注目されています。2025年12月、日本政府はAIの活用や開発に関する『人工知能基本計画』を発表しました。さらにAIに関連する施策に対し1兆円を投資することを表明しました。こうした中、フィジカルAIに対する注目が一層高まり、物流の領域でもさまざまな取り組みが進んでいます。

本コラムでは物流領域へのフィジカルAIの利用と、フィジカルAIの要素となる技術について説明します。

【参考】
内閣府ホームページ『人工知能基本計画』
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/aiplan_20251223

日本経済新聞『政府、AIに1兆円投資へ 基盤モデル国産化やフィジカルAI実装めざす』
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA194VB0Z11C25A2000000/?msockid=0d732c11d2b76d502c373a19d3b26cdd

1.フィジカルAIとは──デジタル世界から物理世界へのAI進化

フィジカルAI(Physical AI)とは、AIとロボットや移動機器、マテハン機器が統合されたものを指します。センサーなどを通じて現実世界を理解したデータを、AIで判断し、物理的なハードウェアを通してさまざまなタスクを処理します。フィジカルAIは、繰り返しや反復動作を強みとする従来のロボットとは異なり、自律的に判断して処理できる点が特長です。こうしたフィジカルAIによるロボットや機械の利用は、物流領域でもすでに始まっています。例えば、Amazonでは世界中にある自社のオペレーションネットワーク全体で100万台超のロボットを稼働させており、ロボット群がパッケージの搬送や識別をしています。

【参考】
Amazon News 『Amazon has more than 1 million robots that sort, lift, and carry packages—see them in action』
https://www.aboutamazon.com/news/operations/amazon-robotics-robots-fulfillment-center

鈴与シンワート|物流コンサルティングサービス関連コラム紹介|フィジカルAIとは?生成AIとの違いや物流領域への活用

2.フィジカルAIが実装された物流関連機器・機械

フィジカルAIが実装された物流の物流関連機器・機械には以下のものがあります。

1. AMR(Autonomous Mobile Robot:自律走行搬送ロボット)

AIを搭載したAMRは、倉庫の床面の走行ガイド用のマーカーや事前にチューニングされたルートに依存せずに走行できます。センサーから得られた倉庫内の環境情報を元に自律的に判断し、最適なルートを走行します。仮に、通路の進行方向にパレットや貨物が置かれていても「止まらずに回り込む」などの判断をすることで、人手を介することなく走行が可能です。

AMR(Autonomous Mobile Robot:自律走行搬送ロボット)のイメージ画像

2. AGF(Automated Guided Forklift:無人搬送フォークリフト)

AGFは、AIのディープラーニングやLiDAR、カメラを活用して、高い精度で周囲の環境や搬送対象のパレットを認識し、自律的に荷役を実行します。AGFはフォークリフトのオペレータが不要なため、物流現場の自動化・省人化が実現可能です。特に、近年では国家資格である「フォークリフト運転技能講習修了証」の取得者の減少や、オペレータの高齢化による人材不足が深刻なため、物流現場の担い手不足の課題解決策として有効です。また、走行するためのガイドを必要としない、完全に自律走行が可能な機種が発表されています。

無人搬送フォークリフトのイメージ画像

【参考】
日経クロステック『フォークリフト運転者不足で自動運転機に脚光、老舗・新興・中国系が火花』
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/08361

3. 自動運転トラック

物流2024年問題で、トラックドライバーの不足は社会的にも大きく取り上げられました。この問題の課題解決策の1つとして挙げられるのが、自動運転トラックです。

自動運転トラックとは、AIと各種センサーが認識・判断・操作を担い、人間のドライバーなしで走行できるトラックです。自動運転の技術水準はレベル0〜5で区分されています。国内においては、株式会社T2が自社開発の自動運転技術を用いたレベル4(特定条件下における完全自動運転)による幹線輸送サービスの実現に取り組んでいます。同社は実証実験を重ね、2025年7月からレベル2(特定条件下での高機能自動運転)による関東―関西間の幹線輸送の商用運行を開始しています。

自動運転トラックのイメージ画像

【参考】
株式会社T2 https://t2.auto/

鈴与株式会社 月桂冠株式会社 株式会社 T2 ニュースリリース『伝統と革新の融合 鈴与と月桂冠、T2 の自動運転トラックを用いた商用運行に参画』
https://t2.auto/news/2025/1125.pdf

4. AIロボットアーム

AIを搭載したロボットアームは、ピッキングの自動化に効果を発揮します。3Dカメラや深度センサーを用いた画像認識技術と、ディープラーニング(深層学習)によって対象物の形状・重さ・テクスチャなどを認識します。さまざまな形状の商品が混在した状態でも、指定された商品を正確に扱えるようになっているため、人手によるピッキングミスを大幅に軽減し、省人化や自動化に貢献します。

5. ヒューマノイドロボット

ヒューマノイドロボットは、人型のロボットであり、人間同様あるいは人間以上の可動域でさまざまな作業を遂行します。ドイツのNEURA Robotics社が開発したヒューマノイドロボット「4NE1」は、AIと3Dビジョンによってあらゆる作業を可能にします。冷凍・空調機器メーカーの倉庫では、4NE1によるリアルタイムで自律的にピッキング作業を実行する実証実験をしました。24時間365日稼働によるタスクの実行が可能になるため、人材不足の物流領域では大きな期待が寄せられています。

【参考】
NEURA 「4ne1 Your Next Gen Humanoid Teammate」 https://neura-robotics.com/products/4ne1

NEURA 「Redefining Industrial Logistics: NEURA Robotics, SAP, and BITZER Pave the Way for Cognitive Automation」
https://neura-robotics.com/neura-sap-bitzer-redefining-logistics

3.フィジカルAIのカギとなる技術

すでに、フィジカルAIは物流領域でさまざまな活用が進んでいます。

フィジカルAIは、センサー、AI、アクチュエーターの3つの要素を統合したものです。センサーとはAIが物理世界の情報を認識するための、言わば「人の感覚器官」にあたるものです。次にAIとは、人間で言えば「脳」にあたる部分で、センサーから収集したデータを瞬時に分析・推論する機能を担います。最後に、アクチュエーターとは駆動部を指します。AIの判断に基づき、機械的な動作をすることで、目的とするタスクを実行します。

ここでは、フィジカルAIを実現するためのカギとなる、センサー技術の1つである「SLAM技術」について説明します。

1. SLAM技術

SLAMとはSimultaneous Localization and Mappingの略で「スラム」と呼びます。この技術は、AIによってリアルタイムで自己位置推定と周囲の環境地図の作成を同時に実行します。特に、自動運転車やAMR、AGF、ドローンなど、正確な自律走行が求められる領域で活用されています。「今どこにいるのか」と「周囲はどのようになっているか」といった情報を処理することができるため、走行にガイドを必要とせず、自律的に運行することが可能です。

SLAM技術は大きく2つのプロセスによって構成されています。

①ローカリゼーション(自己位置推定)

これはセンサーから得られたデータを元に「自分が地図上のどこにいるか」を継続的に推定するプロセスです。

②マッピング(地図生成)

センサーが取得した点群データ(空間内の物体や地形を無数の点の集合で表現した3次元データ)やカメラの画像から、周囲の3D環境マップをリアルタイムで構築するプロセスです。

2. SLAM技術を構成する3つの要素

SLAM技術では「自己位置推定」と「環境地図作成」をリアルタイムで実行するため、以下の要素技術の組み合わせが行われます。

  • LiDAR(Light Detection and Ranging:ライダー)

LiDARとは「光による検知と測距」を意味するセンサー技術です。LiDARは、レーザー光をパルス状に照射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測することで、対象物までの距離・位置・形状を3次元で把握します。200〜300メートル先の対象物を3次元で正確に把握できるため、夜間やトンネル内でも対象物を捉えられます。例えば、自動運転トラックの場合、車体の四方に搭載され、周囲の障害物・他車・歩行者をリアルタイムで検知する「目」として機能します。

  • カメラ(Camera:Visual Sensor)

カメラは、レンズで捉えた光を映像信号に変換するセンサーです。この技術は周囲の環境から視覚情報を取得し、建物の角や模様といった「特徴点」を抽出します。そうすることで自己位置の推定に活用できます。カメラとAIとのディープラーニングの組み合わせによって、道路標識・車線・障害物をリアルタイムで認識し、環境地図を作成します。LiDARと比べてコストが低い反面、暗所や悪天候では性能が低下するため、基本的には他センサーと併用します。

  • IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)

IMUとは、移動する物体の姿勢や動きをリアルタイムで把握するセンサーです。物体の並進運動(ロボットや機械などにおける回転を伴わない直線方向に沿った運動)と回転運動(3次元の慣性運動)を検出・測定します。SLAM技術の要素として、LiDARやカメラと組み合わせることで、より安定した自己位置推定を実現します。トラックの自動運転の場合、急加速や急カーブ、坂道など、トラックが姿勢を大きく変える場面でも正確な位置情報を把握でき、姿勢を補正・維持します。また、GPS(衛星測位システム)が使えないトンネルなどの閉鎖環境でも機能することがIMUの特長です。

4.「物流領域のフィジカルAIとその技術」のまとめ

フィジカルAIは、人材不足に悩む物流業界の課題解決において大きな期待が寄せられています。フィジカルAIの要素であるAIやアクチュエーターに関する技術や、具体的な事例については、次回以降のコラムでお伝えします。

このコラムを掲載している鈴与シンワートでは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を生かし、物流の課題を可視化し、最適なソリューションを提案します。

デジタルツイン技術を用いた倉庫の課題解決にも取り組んでいますので、お気軽にお問い合わせください

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著者:蜂巣 稔

蜂巣 稔(はちす みのる) 物流ライター・ビジネスライター。東京都出身。 大学卒業後、外資系IT企業の営業職を経てバックオフィスで輸出入、国内物流を担当。1999年通関士試験合格。 2002年、日本コカ・コーラ株式会社に転職。以後18年以上にわたり、SCM(サプライチェーンマネジメント)部門にて国内輸送、供給計画立案、在庫最適化、オペレーション最適化に従事。飲料原料のサプライチェーンの上流から下流まで精通。2021年日本コカ・コーラを退職し起業。宣伝会議編集ライター養成講座卒業。以後、BtoBのビジネス領域を軸に活動中。実務経験がある物流ライターとして企業取材、導入事例、経営層・統合報告書のインタビュー、広報誌等の執筆で活動中。生成AI領域の執筆実績も多数あり、フィジカルAI領域についても強化中。グリーンロジスティクス管理士、日本インタビュアー協会認定プロインタビュアー。
noteアカウント:https://note.com/minoru_hachisu/n/n64b39a3de498

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