近年、生成AIが急速に進化しています。例えば、2022年11月に初めて公開されたChatGPTは驚異的な進化を遂げており、言語のみならず画像や音声、動画も扱えるマルチモーダルAIとして、さまざまな領域への活用が広がっています。ChatGPT以外にも、GeminiやCopilotなど、求めるアウトプットによって多くの選択肢があるAI市場は、物理的なハードウェアと統合したフィジカルAIの台頭によって新たなステージに進んでいます。
本コラムでは、フィジカルAIについて、生成AIやこれまでのロボットとの違い、フィジカルAIが利活用される領域、物流領域での活用についてお伝えします。
1.フィジカルAIとは何か──フィジカルAIの可能性
フィジカルAI(Physical AI)とは、現実世界の情報を入手・判断して、物理的なハードウェアを制御しながら自律的に複雑なタスクをこなすAIです。具体的には、センサーやアクチュエーターを通じて現実世界の情報を収集・処理し、ロボットや自動運転車などの物理的な機械を自律的に制御するAI技術です。フィジカルAIは、タスクを処理するために事前にプログラミングをしなくても、自律的に動けるAIといえます。

これまでのロボットは、固定された環境で、定型かつ繰り返しのタスクの実行に長けていました。例えば、物流倉庫で大きなアームを用いて荷物をパレットに積みつけるロボットや、自動車工場で溶接や組み立てをするロボットなどです。こうしたロボットは、決められたタスクを実行するため、あらかじめプログラミングする必要があります。一方で、フィジカルAIは、変化する多様な環境下においても、見て・聞いて・理解して自律的に動くことができます。
フィジカルAIは、さまざまな活用への可能性を秘めており、これまでの世界感や人間の労働を変え得ると、大きな期待が寄せられています。GTC2025の講演において、NVIDIAのジェンスン・ファンCEOは、フィジカルAIの市場は50兆ドル規模になると予測しています。さらに、AIを活用したロボット工学と自動化は、多くの業界に変革をもたらすと語り、属人的で労働集約型といえる物流業界も、その1つとして挙げられています。※1
日本国内でも、国を挙げた取り組みが始まっています。経済産業省とNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、205億円を投じて、ロボット基盤モデルの開発にかかるデータ基盤の整備をAIRoA(AIロボット協会)に委託すると発表しました。さらに、フィジカルAIに必要な基盤モデルの国内構築に向けて、経済産業省による5年間で1兆円規模の支援が計画されています。
【参考】
経済産業省『AIロボティクス検討会 参考資料』
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_robotics/pdf/20251008_2.pdf
※1:NVIDIA『GTC 2025 – Announcements and Live Updates』
https://blogs.nvidia.com/blog/nvidia-keynote-at-gtc-2025-ai-news-live-updates
日本経済新聞『ロボット動かすAIのデータ基盤整備へ、NEDOが205億円』
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG081QT0Y5A800C2000000
2.フィジカルAIを構成する要素とは
一層注目を集めるフィジカルAIは、主に以下の4つの要素から成り立っています。
1. センシング(認識・五感)
周囲の環境、障害物、距離、音、物理法則(重力・摩擦など)をリアルタイムに検知・理解するための技術です。カメラ、LiDAR、マイク、触覚センサー、GPSなどを統合することによって実行します。
2. AI(判断・頭脳)
ニューラルネットワークや強化学習を用いた上で、センサーなどから得たデータと物理法則に基づいて最適な動作を計算します。AIは、LLM(大規模言語モデル)やマルチモーダルAIを活用することで、自然言語による指示の理解や複雑な計画立案を実行します。
3. アクチュエーター(行動・身体)
物理的な動きを担う駆動部分です。モーター、ロボットアーム、自動運転車両の車輪など、物理的なアクションを起こす要素から成り立っています。
4. 物理シミュレーション(環境)
現実世界において、人間との協働作業を安全に実行するために、仮想環境(バーチャル空間)を活用して数百万回の試行錯誤(トレーニング)を行う技術です。
また、これらの技術基盤として注目されているのが、NVIDIAが開発した「Cosmos」です。これは、ロボティクス、自動運転、AIエージェントといったフィジカルAIの訓練と開発を加速させるために設計された、最先端のプラットフォームです。Cosmosは「世界基盤モデル(World Foundation Models:WFM)」プラットフォームとして、重力や摩擦といった物理法則を学習しています。
参考:NVIDIA 『フィジカルAI NVIDIA Cosmos』
https://www.nvidia.com/ja-jp/ai/cosmos
3.フィジカルAIと生成AIの違い
フィジカルAIと生成AIの違いについて、
複数の視点から見ていきます。

活動領域
フィジカルAIは現実世界の物理的空間で駆動する一方で、生成AIは仮想空間であるデジタル上にアウトプットを生成します。
アウトプット
生成AIは、主にインターネットから収集した膨大なテキストデータや画像データを学習して、ユーザーの意向に沿ったアウトプットをデータとして提供します。一方、フィジカルAIは、三次元における空間と物理的動作を関係づけることによって、現実世界で動作としてアウトプットするのです。
ソフトバンクは、それぞれの役割や出力について、生成AIを「情報の処理・分析、コンテンツの生成」と位置付け、フィジカルAIを「タスク実行、物理的な動作・制御」として区分しています。※2
※2 参考:
ソフトバンク『フィジカルAIとは? 生成AIとの違いや活用例を分かりやすく解説』
https://www.softbank.jp/business/content/blog/202601/what-is-physical-ai
4.フィジカルAIと従来のロボットとの違い
次に、フィジカルAIと従来型のロボットの違いについて説明します。

従来のロボットは、あらかじめプログラミングされたデータに基づき、特定の環境においてタスクを処理します。特に、規則性や反復性が高いタスクにおいて正確かつ高速に処理することに長けています。
日本工業規格(JIS)では、ロボットについて「二つ以上の軸についてプログラミングによって動作し、ある程度の自律性をもち、環境内で動作して所期の作業を実行する運動機構」※3と定義しています。また、経済産業省ではロボットを「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」※4と定義しています。
一方フィジカルAIは、より複雑な環境においても自律的に思考し、動作することが特長です。また、フィジカルAIは従来の形状のロボットだけでなく、人型ロボットとして知られるヒューマノイドや自動運転の車など、さまざまなハードウェアと統合されて動きます。
※3 引用:
日本産業企画『JISB0134:2015 ロボット及びロボティックデバイス-用語』
https://kikakurui.com/b0/B0134-2015-01.html
※4 引用:
経済産業省『AI ロボティクス検討会 参考資料
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_robotics/pdf/20251008_2.pdf
5.物流領域におけるフィジカルAIの活用例
物流領域においても、フィジカルAIの活用が期待されています。
労働集約型産業といえる物流業界では、倉庫での仕訳やピッキング作業など、まだまだ属人的な作業が多く存在します。特に、日本ではDXが進まず、人頼みの作業では他の業界とも人材の奪い合いが生じています。こうした課題を抱える物流領域で導入が期待されているのがフィジカルAIです。
例えば、米国のAmazonでは、物流倉庫に「フィジカルAI(物理的AI)」を大規模に導入しており、人間とロボットが協調する次世代の物流システムへの転換を加速させています。
日本国内でも、「汎用的知能ロボットコントローラ」を提供している企業が、フィジカルAIによる物流ロボットの高度化を発表しました。また、千葉県の物流センターでも人型ロボットを使ったピッキングの実証実験が開始されています。
このように、特にECの拡大による物量の増加に反して人手不足に悩む物流業界の、新たな担い手として、フィジカルAIには熱い視線が集まっています。
【参考】
日本経済新聞『Amazon、フィジカルAIで物流革命 編集者の視点』
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL228PV0S5A021C2000000
6.フィジカルAIのまとめ
フィジカルAIには、少子高齢化によって担い手の減少が進む物流領域において、業務効率化だけでなく、人の配置が難しい夜間の倉庫における作業などにも期待が寄せられています。また、将来的には現場の熟練スタッフの経験値を再現できる可能性も広がります。
フィジカルAIに必要なデータの学習空間として、メタバースもさら注目を浴びるのではないでしょうか。
このコラムを掲載している鈴与シンワートでは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を生かし、物流の課題を可視化し、最適なソリューションを提案します。
メタバースによる倉庫の課題解決にも取り組んでいますので、お気軽にお問い合わせください。







