物流の2024年問題に対して、さまざまな取り組みがなされていますが、依然として課題が山積しています。国土交通省では多くの施策を講じて、トラック輸送の自動運転の取り組みが推進されています。2025年3月には、新東名高速道路において、国土交通省による自動運転トラック実証実験が行われました。
また、民間では2025年7月に鈴与株式会社、自動運転トラックの開発を専門とするスタートアップ企業の株式会社T2、月桂冠株式会社の3社による実証実験が開始されました。
本コラムでは、物流の領域におけるトラック輸送の「自動運転」について解説します。
参考:国土交通省 「社会課題の解決に資する自動運転車等の活用に向けた取組方針」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001623770.pdf
参考:国土交通省 「物流を取り巻く動向と物流施策の現状・課題」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001888325.pdf
参考::鈴与株式会社 「鈴与・T2・月桂冠で25 年7 月より、自動運転トラック レベル4実現に向けた実証輸送開始」
https://www.suzuyo.co.jp/news/notice/2025070901.html
目次
1.自動運転とは|レベル1から5までの定義と必要技術
少子高齢化によって人口減少が加速する我が国では、地域の足を担う公共交通や物流の担い手が不足しています。こうした中、政府主導で乗用車やバス、物流トラックの運行を自動的に行い、輸送インフラを維持する取り組みが進められています。
はじめに、「自動運転とは何か」について説明します。自動運転とは、ドライバーではなくシステムが運転操作に関わる認知や予測、判断、操作を代替して行い、車両を自動で走行させることを指します。国土交通省では、自動運転のレベルをSAE(Society of Automotive Engineers:米国自動車技術者協会)の基準に基づき、レベル1からレベル5までの5段階に分類しています。
1)自動運転のレベル
レベル1:
一方向のみの運転支援です。車に搭載されたシステムが、前後・左右のいずれかの車両制御を実施するものです。
レベル2:
縦・横方向の運転支援です。ハンドルから手を離しても走行可能な、「高速道路でのハンズオフ機能」などを実現する高度な運転支援です。
レベル3:
特定条件下での自動運転です。なお、条件外ではドライバーによる安全確保が必要です。
レベル4:
特定条件下での完全自動運転です。作動継続が困難な場合もシステムが対応します。
レベル5:
あらゆる条件下での完全自動運転であり、常時システムが運転を実施しています。
参考:国土交通省「自動運転車の定義及び政府目標」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001371533.pdf
2)自動運転に必要な要素技術
自動運転の実現には、さまざまな技術を統合的に運用する必要があります。周囲の状況を認識するセンシング技術やカメラ等による画像認識技術、正確な自車位置を把握する測位技術や車両間や路車間(道路とクルマ間)で情報共有する通信技術、物流のトラックにおいては隊列走行を実現するCACC(Cooperative Adaptive Cruise Control:協調型車間距離維持支援システム)や車線維持支援を行うLKA(Lane Keeping Assist:車線維持支援システム)といった技術も重要な役割を果たします。

さらに、遠隔監視システムやサイバーセキュリティ対策も不可欠です。車両やシステムだけでなく、高速道路における自動運転専用レーンや、自動運転、手動運転の切り替えに対応できるSA(サービスエリア)やPA(パーキングエリア)の設置も必要です。車両のシステムと道路が連携しながら自動運転を実現する「路車協調システム」の導入が必要です。
参考:国土交通省「自動運転について」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620631.pdf
参考:国土交通省「自動運転についてCACC 及び LKA 技術を活用した後続車有人トラック隊列走行の実証実験」
https://www.mlit.go.jp/common/001257630.pdf
2.自動運転推進の背景とゲームチェンジャーへの期待
繰り返しになりますが、物流業界では、2024年問題として知られるドライバーの人手不足が深刻化しています。国土交通省は、2030年に必要な輸送能力の約34%(9億トン相当)が不足すると予測しています。
特に、働き方改革関連法に基づき、トラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されたことで、長距離輸送を担う人材の確保が困難になっています。このような状況の中、自動運転は物流業界の持続可能性を確保するための重要な解決策として期待されています。
喫緊の課題とも言える物流インフラの維持に対して、自動運転による幹線輸送における長距離・長時間運転によるドライバーの負担軽減や、24時間稼働可能な輸送体制の構築が求められています。
特に、高速道路での幹線輸送は比較的走行環境が一定であることから、自動運転技術の導入に適しているとされています。さらに、高速道路のICに直結した自動運転対応の物流拠点の建設が計画されるなど、トラックの自動運転は、単なる輸送の自動化だけでなく、物流のゲームチェンジャーになる期待も寄せられています。
3.実証実験が本格化|国土交通省と民間3社の最新取り組み
トラックの自動運転は、高速道路における幹線輸送を中心に実用化が進んでいます。政府は2021年に「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」を立ち上げました。これは経済産業省と国土交通省が連携し、自動運転レベル4等の先進モビリティサービスの実現・普及に向けて、研究開発から、実証実験、社会実装まで一貫した取組を行うプロジェクトです。
さらに、2025年3月には国土交通省道路局によって自動運転トラックの実証実験が行われました。この実験では、新東名高速道路の駿河湾沼津SA〜浜松SAに自動運転車優先レーンを設定し、路車協調によるレベル4の自動運転に向けて検証されました。内容としては、高速道路の本線への合流や、合流してくる車両の検知、工事規制や落下物の先読み情報の提供などについて検証です。
また、民間企業による取り組みも進んでいます。2025年7月以降、鈴与株式会社(以下、鈴与)、株式会社T2(以下、T2)、月桂冠株式会社(以下、月桂冠)の3社による、レベル4実現に向けた幹線輸送の実証輸送が実施されています。
この実証実験では、京都市にある月桂冠の物流拠点から神奈川県厚木市にある鈴与の物流拠点を結ぶ関東・関西間の高速道路上の一部区間で、T2が開発した自動運転トラックを用いて月桂冠の日本酒を輸送しています。検証は「貨物を積載した幹線輸送における自動運転の走行ルート及び走行リードタイムの検証」、「想定したオペレーションパターンの有効性検証」とし、片道を計3回、レベル2相当で実施されています。
参考:国土交通省「国土交通省道路局の取組み」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/lifeline/jitugen2-siryou9.pdf
参考:鈴与株式会社「鈴与・T2・月桂冠で25 年7 月より、自動運転トラック レベル4実現に向けた実証輸送開始」
https://www.suzuyo.co.jp/news/notice/2025070901.html
4.物流の領域におけるトラック輸送の「自動運転」の まとめ
トラック輸送における自動運転は、深刻化するドライバー不足と2024年問題への解決策として、政府と民間企業が一体となって推進しています。2025年には国土交通省による実証実験や、鈴与、T2、月桂冠の3社による実証輸送が開始され、商用運行も始まるなど、実用化が着実に進んでいます。2027年から2030年にかけて、レベル4の自動運転トラックが高速道路の幹線輸送で本格展開されることで、物流業界の持続可能性が大きく向上することが期待されます。
本コラムを掲載している鈴与シンワートでは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を生かし、物流の課題を可視化し、最適なソリューションを提案します。
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