物流の2024年問題は依然厳しい状況にあります。国土交通省は、2030年に輸送能力の約34%(9億トン相当)が不足する(※1)と試算しており、今後は組織や企業横断的な課題解決の取り組みが不可欠となっています。そうした中、2026年4月から一定の基準値以上の特定事業者に対して「CLO(物流統括責任者)」の設置が義務付けられることになりました。CLOは物流が直面する人材不足や法規制への対応、サプライチェーンの維持継続など、さまざまな課題を克服するため、物流業務全体の統括や全体最適を実現する要となります。本コラムでは、そもそもCLOとは何か、またその役割等について解説します。
(※1)引用:国土交通省 『物流を取り巻く動向と物流施策の現状・課題』
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001888325.pdf
目次
1.CLOとは
物流の文脈において、CLOとはChief Logistics Officerの略称であり、最高物流統括責任者を意味します。
特に、欧米企業では企業の物流戦略全般を統括し、分析や戦略立案、施策の実行と課題解決をしながら、経営視点でサプライチェーン全体の最適化を図る最高責任者クラスの役職です。そのため、CLOは、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)などと同列で語られる役職です。
一方、国内においてCLOの認知はまだ低い状況ですが、今後物流が経営の中核に移行するなかで、その役割の重要性が高まっていきます。国土交通省ではCLOを「物流統括管理者」として、以下のように記載しています。(※2)
物流統括管理者の要件: 事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者 (重要な経営判断を行う役員等の経営幹部から選任される必要があります) |
(※2)引用:国土交通省 物流効率化法 理解促進ポータルサイト『物流統括管理者(CLO)の選任』
https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo
また、日本ロジスティクスシステム協会の資料では、CLOについて以下のように記載されています。(※3)
「CLOは従来の「物流部長」とは異なり、自社の戦略を踏まえながらサプライチェーン全体におけるロジスティクスに対して責任を負います。」 |
(※3)引用:日本ロジスティクスシステム協会 『物流変革を目指す全ての方々へ「人材×変革」』
https://www1.logistics.or.jp/wp-content/uploads/2025/03/JILS_innovation_booklet.pdf
海外と国内では、「最高物流統括責任者」と「物流統括管理者」で呼称が異なりますが、CLOが果たす役割として、経営目線で中長期的に組織横断的な課題解決や全体最適を図ることについては共通しています。
また、CLOと従来の物流部長との違いは、物流部長が企業内の物流部門の管理に責任を持つことに対し、CLOはさらに高い視座と広い視点で経営戦略面の責任を担います。これが物流部長の役割とは大きく異なる点です。
2.CLO導入の背景
物流は経済活動に不可欠なインフラでありながら、その担い手は減少しています。国民の生活を保つためにも、世間の耳目を集めた2024年問題に対して「喉元過ぎれば熱さを忘れる」であってはならない状況にあります。
こうした中、CLOが導入される背景としてあるのが、2024年5月15日の「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」の公布です。この法律は、物流の「2024年問題」に対応し、物流の持続可能な成長を図るために公布されました。
この法律のなかで、一定規模以上の特定荷主に対して、「物流統括管理者」いわゆるCLOの選任や中長期計画の作成が義務付けられています。
物流が直面する課題は、慢性的なドライバー不足や高齢化による担い手不足だけではありません。働き方改革による労働規制強化への対応や、サプライチェーンの維持継続、気候変動や脱炭素化への対応、EC・多頻度小口物流の急拡大、物流DXなどさまざまな課題への対応が求められています。
こうした課題は、従来の部門間の縦割りや属人的な組織運営ではなく、組織横断的で企業横断的な取り組みが必要なケースが増えています。そのため、CLOの設置による経営目線からの「全体最適の推進」が必要となっています。
参考国土交通省『流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令を閣議決定』
https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000932.html
国土交通省「物流統括管理者(CLO)の選任」に関する公式ポータルサイト
https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo/
経済産業省「新物効法の施行に向けた状況」(PDF)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/250304_setsumeikai.pdf
3.CLOの設置とその役割
CLOの設置と役割について、前提となるのが、2024年5月15日に公布された「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流効率化法)」及び「貨物自動車運送事業法」の一部を改正する法律です。また、一定の基準値によって物流全体への寄与が高い事業者が、国土交通省から特定事業者として指定されることになりました。
以下の基準に該当する事業者が特定事業者となります。(※4)
1.取扱貨物の重量が 9万トン以上の特定荷主及び特定連鎖化事業者(フランチャイズチェーンなど、傘下に多数の小売・物流拠点を持つ事業者)
2.保有車両台数150台以上特定貨物自動車運送事業者等
3.貨物の保管量70万トン以上の特定倉庫業者
その上で、以上の3つの特定事業者のうち、CLOの選任が義務付けられるのは以下の2つになります。
1.年間取扱貨物の重量が 9万トン以上の特定荷主
2.特定連鎖化事業者
また、CLOの設置を義務付けられた事業者が、CLOを選任しないときは罰則規定があります。物流統括管理者を選任しないときには百万円以下の罰金、選任の届出を怠ったときは、20万円以下の過料に処せられますので、法令の遵守が必要です。
次にCLOに求められる役割として、物流統括管理者には、物流の機能改善だけでなく、調達や生産、販売といったサプライチェーンの上流から下流に至る各分野の水平連携や垂直連携を図ることが求められています。国土交通省では以下の3つをCLOの業務として定めています。(※5)
1.中長期計画の作成 2.トラックドライバーの負荷低減と輸送される物資のトラックへの過度の集中を是正するための事業運営方針の作成と事業管理体制の整備 3.その他トラックドライバーの運送・荷役等の効率化のために必要な業務 1)定期報告の作成 2)貨物運送の委託・受渡しの状況に関する国からの報告徴収に対する当該報告の作成 3)事業運営上の重要な決定に参画する立場から、リードタイムの確保、発注・発送量の適正化等のための社内の関係部門(開発・調達・生産・販売・在庫・物流等)間の連携体制の構築 4)トラックドライバーの運送・荷役等の効率化のための設備投資、デジタル化、物流標準化に向けた事業計画の作成、実施及び評価 5)トラックドライバーの運送・荷役等の効率化に関する職員の意識向上に向けた社内研修等の実施 6)物資の保管・輸送の最適化に向けた物流効率化のため、調達先及び納品先等の物流統括管理者や物流事業者等の関係者との連携・調整 |
(※4)参考:国土交通省「「物流統括管理者(CLO)の選任」に関する公式ポータルサイト 一定規模以上の対象事業者の対応(2026年度施行の内容)」
https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/
(※5)引用:国土交通省「物流統括管理者(CLO)の選任」
https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo/
4.これからの物流に不可欠なCLOのまとめ
CLOは、我が国の物流の維持継続を図り、経済活動を支えるために、さまざまなステークホルダーと水平方向、垂直方向へ連携しながら横断的な役割を担っていく企業のリーダーです。
また、物流業務の現場と経営判断を接続する役割として、CLOは法的・実務的・社会的責任を担いながら、持続可能な物流に貢献する役割を果たしていきます。
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