地球温暖化が進行し、国内の夏の最高気温は年々更新され、国連事務総長が「地球沸騰化時代の到来」に警鐘を鳴らしています。物流領域においても、気候変動の影響は避けられません。
本コラムでは、物流の大きな機能の1つである保管に関して、気候変動時代の倉庫の温度管理についてお伝えします。
目次
1.倉庫における温度管理の概要
まず、国内における荷物や貨物の保管温度帯について説明します。保管の温度帯は4温度帯と3温度帯に大別できます。一般的に4温度帯とは常温、定温、冷蔵、冷凍の4つに分類されます。
一方、3温度帯とは、常温、冷蔵、冷凍に分けられ、主に配送や保管時の温度指定に利用されています。倉庫における各々の温度帯について説明します。
1.常温倉庫:
最も一般的な倉庫で、倉庫内の温度は空調等によって管理されない倉庫です。倉庫内の温度は日本産業規格(JIS)が定義している常温倉庫の温度は15℃〜25℃となっています。
2.定温倉庫:
保管温度が一定に保たれる倉庫のことを指します。10℃以下で荷物を保管する冷蔵倉庫や冷凍倉庫も一定の保管温度を保つため、定温倉庫と考えることもありますが、一般的には冷蔵倉庫や冷凍倉庫以外で、一定の保管温度を保つ倉庫を定温倉庫として区分します。
3.冷蔵倉庫:
冷蔵倉庫はチルド倉庫とも呼ばれます。鮮度の維持が必要な水産物・畜産、農産品や、品質の安定を要求される医薬品等を保管します。必ずしも、冷蔵の温度帯は統一されていませんが、一般的にはマイナス5℃~プラス5℃です。
4.冷凍倉庫:
冷凍倉庫は文字通り、冷凍された荷物や貨物を保管します。冷凍倉庫は保管温度帯によって等級が分かれています。一般的に冷凍倉庫は15℃以下の保管温度帯です。
なお、国土交通省が管轄している倉庫業法では、冷蔵倉庫並びに冷凍倉庫の双方を冷蔵倉庫としています。
2024年4月1日に施行された法改正によって、冷蔵倉庫(冷蔵倉庫・冷凍倉庫)の温度帯が変更され、これまでの区分よりも細分化されました。この変更は冷凍食品の保管量増加や電力料金高騰等の環境変化、保管料高騰の抑制、環境負荷の低減などを背景としています。
「2.改正の概要
(1) 冷蔵倉庫の基準の改正
(告示第 19 条関係) 冷蔵倉庫の基準のうち、温度帯の区分を以下の通り細分化します。」

引用:国土交通省「倉庫業法第三条の登録の基準等に関する告示」の改正について
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001720525.pdf
2.夏期の気温上昇に伴う倉庫の保管温度について
気候変動の影響による気温の上昇が顕著です。特に国内の夏期の最高気温は毎年更新を続け、人の体温を超えるほどになっています。こうした中、倉庫業務でも様々な影響が出始めています。
常温倉庫では、一般的に温度変化の影響を受けにくい紙や金属、部品、あるいは常温保管が許される消費財などが保管されてきました。常温倉庫は庫内の温度調整を行わないため、外気温の影響を受けやすく、夏は高温に、冬は低温になる傾向がありました。特に夏期の常温倉庫の庫内温度は40〜45℃に及ぶといわれています。(※1)
こうした中、夏は温度上昇による商品や貨物の品質への影響だけでなく、予想外の領域やオペレーションにも影響が生じることがあります。
実際に筆者が経験したことですが、原料に貼付されたラベルが真っ黒に変色し、ロット番号やQRコードがハンディターミナルで読み取れなくなったことがありました。当初は仕入れ先のサプライヤーに確認するも、原因が特定できませんでしたが、よくよく調べると、ラベルが感熱紙だっため、あまりの気温の高さに黒色に変化したことが判明しました。また、袋詰めされた原料に封入されていた空気が熱で膨張し、パレットに詰みつけられた「はい」(積み重ねられた荷物のまとまり)が崩れそうになっていたこともありました。
荷物や貨物が入庫待ちで炎天下に晒されているときや、屋上直下の最上階は庫内の温度も上昇しがちなので、可能な限り暑さの影響を受けない対策を検討する必要があります。
(※1)参考:日本いぶし瓦株式会社
https://eco.nihon-ibushikawara.co.jp/blog/%E5%80%89%E5%BA%AB/p4738/
3.夏期の気温上昇に伴う倉庫内の労働環境
気温上昇が影響するのは、商品の保管だけではありません。庫内で働くスタッフに対する配慮も不可欠です。特に空調が設置されていない常温倉庫では、庫内の空気が滞留し、暑さがこもることでサウナ状態となり、作業員の熱中症のリスクが高まります。
厚生労働省の資料(※2)によると、2012年(平成24年)以降の職場における熱中症の災害発生状況は増加傾向にあり、2021年(令和3年)に一旦減少するも、再び増加しています。また、2023年(令和5年)には熱中症の死傷者数が1,106人となっています。

引用:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」 P1 夏期の気温と職場における熱中症の災害発生状況(H24〜)
https://www.mhlw.go.jp/content/001476821.pdf
(※2)参考:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」
https://www.mhlw.go.jp/content/001476821.pdf
一方、庫内温度がマイナス20℃程度からマイナス50℃にもなるスーパーF級(Frozen Class)の冷凍倉庫では、庫内温度と庫外の気温との差が極めて大きいため、夏場は体力を消耗しやすい状況にあります。筆者自身、猛暑日に冷凍倉庫で棚卸ししたことがありますが、庫内と庫外の温度変化に身体が馴れなかった経験があります。
4.倉庫内の温度上昇への対応策
先述のような労働環境を改善するために、現在では様々な取り組みを行っています。
例えば、近年建設される大型の物流施設では屋上緑化が進んでいます。夏場に高温になる倉庫の屋根を緑化することで、断熱効果が得られ、建物内の温度上昇を抑制します。さらに冷房の稼働状況を適正化することによって光熱費削減やGHG(Green House Gas:温室効果ガス)の削減にも貢献します。ちなみに国土交通省による令和5年の調査では、屋上緑化・壁面緑化の建物施工実績は「工場・倉庫・車庫」の占める割合が、28.2%と最も高い割合を示しています。

引用:国土交通省「全国屋上・壁面緑化施工実績調査」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001852600.pdf
また、最近では大型のシーリングファンも倉庫業向けに紹介されるようになりました。もともとはスポーツ施設やアリーナ、米国の広大な牛舎などで活用されていたものですが、直径約7メートルの大型のファンを天井に設置することで、庫内全体の空気を循環させ、体感温度を下げる効果を謳っています。
作業スタッフの周辺を冷却するスポットクーラーの導入も普及していますが、有効範囲が限られるため、こうした庫内環境の全体最適を図る製品が活用され始めています。
さらに、最近では冷却ファンが内蔵された冷却ベストや、冷却水を循環させて体を冷やすクーラーベストが一般的になっています。一人ひとりの作業スタッフに対しては、こうしたベストを支給することで、熱中症の対策ができます。
5.倉庫における温度管理のまとめ
地球温暖化の進行により、倉庫における温度管理はますます重要な課題となっています。常温倉庫では夏に45℃程度まで上昇する庫内温度が商品品質や作業環境に深刻な影響を与えています。商品の品質保持のみならず、作業員の労働環境確保の側面においても、継続的な温度管理対策の強化が求められています。
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