第20回 フルフィルメントセンターは「効率性と顧客満足度の最大化」を図る新たな拠点

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第20回 フルフィルメントセンターは「効率性と顧客満足度の最大化」を図る新たな拠点

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第20回 フルフィルメントセンターは「効率性と顧客満足度の最大化」を図る新たな拠点

公開 :2025.02.25 更新 : 2025.02.27

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EC市場の好況を背景に、全国各地でフルフィルメントセンター(Fulfillment Center:FC)の開設が相次いでいます。
FCとは、ECや通販に特化し、最先端のシステムや設備を導入し、高度に自動化した物流センターです。
FCは商品の入荷から出荷までの工程を、ロボットや最新のマテハン機器によって自動化し、高効率化しています。
さらに受注から発送、返品処理や顧客管理などのバックオフィス業務も担い、従来の倉庫とは一線を画していることが特長です。

本コラムでは、業務効率化と顧客満足度を最大化するフルフィルメントセンターについて紹介します。

最新のフルフィルメントセンター事情

2024年8月、神奈川県の相模原市にAmazon相模湖フルフィルメントセンターが開設されました。
このFCの延床面積は約15万m2と、東京ドーム約3個分の大きさです。
また、日本最大級の「Amazon Robotics」を導入し、1日あたりの約65万商品の出荷が可能です。
「Amazon Robotics」とは、「ポッド」と呼ばれる商品専用棚と、「ドライブ」と呼ばれるロボットから構成され、「ポッド」の下に「ドライブ」が入り込んで「ポッド」を持ち上げ、FC内を搬送するシステムです。
相模湖FCでは、約3,000台のドライブが稼働し、約3万5,000台のポッドがスタッフの待つ有人ステーションまで自動搬送しています。

「Amazon Robotics」は、人ではなくモノが動くシステムです。
商品がスタッフの元へ運ばれるGTP(Goods to Person)システムのため、スタッフ自身がピッキング等で移動する必要はありません。
このシステムにより、FC内のスタッフは歩行距離や移動時間が削減され、業務時間中にスタッフが疲弊するという課題を解消しています。
FCはロボティクスやAIの導入により、従来の物流センターと比較して処理能力や生産性が格段に向上しています。

参考:PR TIMESプレスリリース『Amazon、2010年から2023年の神奈川県への投資総額は8,300億円超』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001897.000004612.html

参考:Impress Watchニュース『アマゾン、新物流拠点「相模湖FC」公開 ロボット導入は国内最大規模』
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1617166.html

ハリー・ポッターとFCのテクノロジー

ここで過去に目を向けてみます。
1995年7月、米国ワシントン州でオンライン書店としてスタートしたAmazonには、現在のFCのテクノロジーにつながる原点がありました。

1997年に出版されたベストセラー『ハリー・ポッター』。
その第1巻である『ハリー・ポッターと賢者の石』の売れ行きは、「ランダム ストー(Random Stow)(以下、ランダム ストー)」と呼ばれる商品保管方式のきっかけになりました。
当時のAmazonでは書籍をタイトル別に整理し、保管していましたが、それ故に注文が重なるベストセラー書籍のピッキング作業が溢れ、頻繁に停滞することがありました。
在庫保管スペースで商品をピッキングするスタッフの順番待ちが発生し、渋滞が起きていたのです(※1)

こうした課題をもとに生まれたのが「ランダム ストー」と呼ばれる保管方式です。
この方式の特長は、空いている棚であればどこでもランダムに商品を保管することです。
特定のスペースに在庫が集中しないため、ピッキング作業の順番待ちは解消され、特定箇所での渋滞が発生せず、ピッキング作業がスピーディーにこなされています。

この「ランダム ストー」方式は、現在では世界中のAmazonのFCで採用されており、入出荷の作業工程すべてが効率的かつスピーディーに行われています。
具体的には次のような工程です。

① AmazonのFCに入荷した商品は商品登録を経て、商品専用棚である「ポッド」の空きスペースにランダムに詰め込まれる

② 「ポッド」は搬送用ロボットの「ドライブ」によってスタッフの元へと自動搬送される

③ スタッフは搬送されてきた「ポッド」の空きスペースに入荷した商品を格納する

「ポッド」内の商品情報はシステムで管理されているので、スタッフは商品の格納場所を気にする必要はありません。

(※1)出典:Amazon『Amazonが、ジェフ・ベゾスが起業した1994年当時のガレージを再現。その様子は?』
https://www.aboutamazon.jp/news/amazons-offices/amazon-recreated-the-garage-where-jeff-bezos-started-the-company-in-1994-heres-what-it-looks-like

FCは物流のイメージを変えるもの

AmazonのFCについて述べましたが、FCは従来の物流倉庫のイメージと異なる点があります。
FCにおける物流工程は従来よりもハイレベルに自動化し、効率性、正確性、環境への配慮がされています。
FCにおける物流管理業務は、物流倉庫の管理というよりも製造業の製造工程管理に近いものといえるでしょう。
以下に、FCに「新たに加わった価値」を詳しく見ていきます。

1.作業効率向上と安全性の確保:ロボティクスの導入により作業効率が向上し、人とロボットの協働で安全性が確保されます

2.AIの活用:AIの活用で在庫管理や注文処理の最適化が図られます。またAIは梱包資材の選定などにも有効活用されます

3.環境への配慮:太陽光発電設備の導入やエネルギーの再利用や、梱包の簡素化による資材の削減などで環境へ配慮します

4.従業員の働きやすさ:安全性を向上させ、かつ休憩スペースやカフェなどを設置し、より快適な労働環境を実現します

5.地域社会との共存:オープンスペースの設置や地域イベントの開催、有事の際には災害拠点倉庫として利用可能とします

FCのエッセンスとは「効率性と顧客満足度の最大化」

最後にFCのエッセンスについて考えてみます。
FCは単なる物流倉庫ではなく、ECビジネスの中核を担う戦略的拠点です。Amazonの理念(※2)の1つに「お客様を起点にする」という言葉があります。
顧客満足度を意識したこの言葉の意味をFC業務に当てはめると、より早く正確な商品の出荷が要求されることになります。
そのために必要なことは、属人的なオペレーションではなく、高度に自動化され、統合された物流システムであると言えるのではないでしょうか。
属人的なオペレーションでは、スタッフによって作業スピードが異なったり、物流品質がばらついたりします。
さらにヒューマンエラーの懸念もあります。

FCは、顧客満足度の向上を図るための最重要拠点となります。
FCはコストセンターではなく、利益を生み出す重要な戦略拠点として位置づけられています。
例えば、Amazonでは、FCを「コスト」が発生する物流倉庫としてみるのではなく、「利益」を生み出すプロフィットセンターとして捉えています。

また、FCの進化により、オンラインショッピングの利便性も大幅に向上しています。
例えば、FCはECで購入した商品を店舗で受け取れるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)など、新しい受け取り方法を可能にし、顧客満足度の向上につなげています。
視点を変えると、FCとは顧客の注文を効率的に処理して出荷するために設計された専門の施設です。

これまで物流業界は「モノを保管し、輸送する」産業でした。
しかし、現代のEC市場においてはテクノロジーと顧客体験が融合する場に変化しています。
したがいまして、FCは、ECの成長と消費者の期待に応える重要な役割を担っています。

(※2)引用:Amazon『Amazon について』
https://www.aboutamazon.jp/about-us

FCの選択や利用には多くのノウハウが求められます。
鈴与シンワートでは「鈴与グループが持つ物流ノウハウ」と「鈴与シンワートのシステム開発力」を生かし、物流の課題に対して最適なソリューションを提案します。

また、工場や倉庫の新設やレイアウト変更、ラインなど設備の変更などの検討時に実際は「やってみないと判らない…」と悩んでいる方も多いと思います。
そんな時には、「仮想空間で実物同様の事前検証ができる」デジタルツイン技術を活用した物流ITコンサルティングがオススメです。

まずは、お気軽にお問い合わせください。

https://www2.shinwart.co.jp/l/907272/2021-11-28/39gg2

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著者:蜂巣 稔

蜂巣 稔(はちす みのる)1967年生まれ。東京都出身。 大学卒業後、米国系のIT企業に入社。営業職を経てバックオフィスで輸出入、国内物流を担当。1999年通関士試験合格。 2002年に日本コカ・コーラ株式会社に転職。SCM(サプライチェーンマネジメント)部門にて一貫して国内輸送、3PL、在庫最適化、供給計画立案、購買業務に従事。飲料原料のサプライチェーンの上流から下流まで精通。 2021年日本コカ・コーラ株式会社を退職し起業。葉山ウインズ合同会社を設立。宣伝会議(株)編集・ライター養成講座43期卒業。上阪徹のブックライター塾第9期卒業。ダイレクト出版(株)セールスライター認定コース修了。物流ライターとして活動中。大手上場企業のオウンドメディアにてDXに関する記事も執筆中。

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